第53話 Monday Night:並んで歩く距離が、ゆっくり恋になる
歩道の街灯が、二人の影をゆるやかに伸ばしていた。
美月は恥ずかしそうに俯いたまま、
でも航平の隣は離れようとしない。
(……こんな夜、夢みたい)
成人式の夜。
まさかその時から、彼に見られていたなんて思いもしなかった。
(私……なんで気づかなかったんだろう)
胸の中で呟きながら、
ふと隣を見る。
航平は、どこか照れたような、
でも嬉しそうな表情だった。
「……ねぇ、航平さん」
「ん?」
「昔からずっと……見ててくれてたの?」
その問いに、航平は一瞬言葉を失い、
それから照れ隠しするように笑った。
「……全部じゃないよ。
でも……見てたよ。気になってた」
「っ……」
美月は顔が熱くなる。
「でもね」
航平は足を止め、
美月の方に身体を向けた。
「“恋”って思ったのは……
もっと最近」
「最近……?」
「うん。
豊さんから“美月、妄想恋愛ばっかりしてるぞ”って聞いてさ」
「お父さん……っ!!」
思わず美月が顔を覆うと、
航平は声を殺して笑った。
「その時……思ったんだよ。
“俺と恋してくれたらいいのに”って」
ふいに、
美月は胸の中がぎゅうっと締まった。
「……そんなの……反則だよ……」
「反則?」
「そんなこと言われたら……
もっと……好きになっちゃうじゃん……」
小さく震える声に、
航平は一瞬動きを止めた。
次の瞬間、
彼の顔がほんの少し赤くなる。
「……美月……」
声が低くて、甘くて、
思わず心臓が跳ねる。
「そんな風に言われたら……俺……
ほんとに我慢できないって」
「……っ」
二人の距離が、一気に近づいた。
でも航平は、
ぎりぎりのところで止まる。
「ゆっくりでいい。
急がないから」
「……うん」
「全部……安心して俺に預けて」
美月は小さく頷いた。
(預けたい……全部)
そう思ったけれど、言葉にはしなかった。
寒い夜風の中でも、
二人の間だけはずっと温かかった。
そして、
その距離感のまま美月の自宅の前まで歩いていく。
次の物語へ進むための、
静かで優しい夜だった。




