第49話 Monday Morning:触れない距離で交わす、初めての朝の言葉
月曜日の朝。
東京の街はまだ薄い光に包まれていて、
冬の空気はすこし冷たく、
週の始まりのざわめきが静かに動き出しはじめていた。
けれど──
その静けさの中で、
胸をどきりと鳴らして目を覚ました人間がひとり。
美月
目が覚めて最初に見たのは、
スマホの通知。
(……っ!!)
昨日の夜、
別れてすぐに届いていた航平からのメッセージが
画面に明るく表示されていた。
『美月
今日はありがとう
本当に、幸せだった
……好きだよ
明日、仕事終わり迎えに行く』
(……っ……)
布団の中で小さく丸まり、
呼吸がうまくできない。
(好き……)
昨日の海の声より、
帰る前の小さなキスより、
胸に直接落ちてくる。
画面の文字だけなのに、
触れられたみたいに心臓が跳ねた。
(どうしよう……嬉しい……)
涙がにじみ、
布団に顔を埋める。
一度深呼吸をして
震える指で返信を打つ。
『おはようございます
私も幸せでした
今日は頑張れそうです
迎えに来てくれるの、楽しみにしています』
文を読み返して、
消して、打ち直して、
また読み返して──
結局一番素直な言葉を残して送信ボタンを押した。
送った瞬間、胸が熱くなる。
(こんな朝、初めて……)
一方その頃。
カフェ「À mon rythme」の厨房には
朝の仕込みの音が静かに響いていた。
その中で、
スマホのバイブレーションに
航平の胸が一瞬で跳ね上がる。
(……来た)
手についた水を軽く拭き、
画面を開く。
美月からの返信。
『迎えに来てくれるの、楽しみにしています』
この一文だけで、
息が止まりそうだった。
(……可愛いな……ほんと……)
昨日、海で見た泣き笑いの顔。
小さなキスのあと、恥ずかしそうに笑った横顔。
全部が胸に蘇る。
返信を打とうとして、
一度立ち止まる。
(仕事前だし……どうしよう……
でも言いたい……)
少しだけ悩んで、
丁寧に言葉を選んだ。
『美月
今日も無理せず頑張って
終わったらすぐ迎えに行く
……会えるの楽しみ』
送信する指が震えていた。
(昨日より……好きになってる……)
自分でも驚くほど、
一日で心が深く沈んでいく。
まだ日の昇りきらない月曜日の朝。
それぞれの場所で、
それぞれの生活を始めながらも、
スマホ一つで繋がった小さな世界がある。
同じ気持ちを返し合う朝は、
昨日の告白の続きみたいで、
いつもより少しだけ世界が明るく見えた。
(……仕事終わったら、会える)
その想いが
二人の胸を同じリズムで温かく震わせていた。




