第47話 Sunday Night:ひとりになって、やっと恋が溢れた
玄関の扉が、静かに閉まった。
その瞬間——
さっきまで必死に抑えていたものが、
どっと胸の奥から溢れてきた。
(……っ……どうしよう……)
バッグを床に落としたまま、
美月はその場にしゃがみこんだ。
顔を覆う両手が震える。
頬の熱も、心臓の鼓動も、
ずっと落ち着いてくれない。
(夢……じゃないよね……?)
湘南。
夕日の残り香が漂う海辺。
波の音。
暗くなりかけた空。
航平さんの声。
『……美月が好きだよ』
思い出した瞬間、
胸がぎゅっと収縮して、息が止まりかけた。
「……好き……」
声に出したら、
涙がにじんだ。
部屋に入り、
やっと冷静になれると思っていたのに——
ぜんぜん無理だった。
コートを脱ごうとして、
途中で手が止まる。
(このコート……)
帰り道で手をつないだ時、
航平さんの指が触れた部分。
その温度まで思い出してしまい、
胸がまた苦しくなる。
(離したくないって……言ってくれた)
海からの帰り道。
駅に向かう道で、
人の流れに紛れながら手を繋いだあの感触。
『……離したくないな』
(……ずるいよ)
思い出すたびに、
体の奥がじんわり熱くなる。
ソファに沈み込む。
視界がぼんやりにじむ。
(いつから私のこと……好きだったんだろう)
帰りの電車で聞いた、
あの“言いにくそうな本音”。
『……ずっと前から、だよ』
その低い声が、
まだ耳に残ってる。
(ずっと……?)
胸が痛いほど嬉しい。
でも信じられない。
私なんかが?
あんな大人で、落ち着いてて、
お店をひとりでやってる人が?
(……ほんとに?)
疑うでもなく、
ただ、嬉しくて苦しくて、
許容量を超えてしまって泣きたくなる。
ふと、唇に触れる。
帰り道で触れた、
“あの小さなキス”。
ほんの少し触れただけなのに、
ずっと余韻が残っている。
(……キス、したんだ……私)
顔に熱が一気に広がる。
耳まで真っ赤になって、
ソファに倒れ込んで枕を抱きしめた。
「……好き……」
何度も呟いてしまう。
だって、胸がいっぱいで。
(明日も会いたい……)
そう思った瞬間、
心臓が跳ねた。
告白されて、
手を繋いで、
キスまでしたのに——
まだ足りない。
(……恋って、こんなに苦しいの?)
ひとりになって、
ようやく実感する。
今日の全部が夢みたいで、
でも確かにあった出来事で。
部屋の灯りがやさしく照らす中で、
美月は胸に手を当ててゆっくり目を閉じた。
(……会いたいよ、航平さん)
その想いだけが、
静かな夜の中で強く、強く響いていた。




