第40話 Saturday:止まった言葉の続きが、胸の奥で疼いていた
航平サイド:土曜の朝
土曜日の朝。
目を覚ました瞬間、胸の奥にまだ昨夜の熱が残っていた。
(……引き延ばすつもりなんてなかったのに)
言えなかった言葉が喉に残ったまま、
眠りきれなかった夜。
金曜のあの空気。
美月の顔。
揺れた瞳。
あと一歩の距離。
(……来週までなんて、とても待てない)
枕元のスマホを手に取り、
何度も打っては消した“誘いの言葉”をもう一度見つめた。
でも、朝に送るのは違う気がした。
(……美月は今日、仕事。
終わる頃に……送ろう)
自分に言い聞かせながら、
深く息を吐く。
言いたいことは決まっている。
伝えたい想いも。
問題は──
その言葉を、美月の前でちゃんと口にできるかどうか。
(……会って話したい)
そう思った瞬間、胸の奥が強く疼いた。
美月サイド:土曜の夜・仕事終わり直前
土曜日の夜。
時計は閉店時間の少し前。
(今日も……来ないよね)
分かっている。
土曜日はいつも航平さんの店が忙しい。
スマホをポケットに入れてカクテルの仕込みをしながら、
心だけが落ち着かない。
(昨日……続きを聞けなかった)
言われてないのに、
“言おうとしてくれた”気配だけが胸に残っている。
その“余韻”がずっと甘く疼く。
「美月、あと少しだな」
「うん……!」
豊の声がどこか優しくて、
胸の中まで見透かされてる気がした。
航平サイド:送信ボタンを押す瞬間
時計を見て、
閉店10分前であることを確認する。
(……今だ)
深呼吸。
そして、震える指で送信。
『明日の昼、一緒に出かけませんか。
昨日の続き……ちゃんと話したいから』
メッセージを送った瞬間、
心臓が跳ねた。
(頼む……逃げないでいてくれ)
美月サイド:通知の音
ピロン。
その一音で、胸が一気に熱くなる。
(……え? いま?)
スマホをあわてて取り出す。
画面に表示された名前は──
橘 航平
胸がぎゅっと締まる。
震える指で開くと、
そこには短いメッセージ。
『明日の昼、一緒に出かけませんか。
昨日の続き……ちゃんと話したいから』
(……っ!!)
身体が一気に熱くなる。
“続き”。
それだけで胸が溢れそうになる。
豊がそっと近づき、
何も言わずに美月の表情を見て、静かに笑った。
「……良かったな」
たった一言が胸に沁みた。
豊サイド:父としての決意
美月の嬉しそうな笑顔を見て、
豊はグラスを拭く手を止めた。
(……あの顔は、もう止められねぇな)
長く一緒に生きてきた。
娘の“本物の恋”なんて、見ればわかる。
そして──
芦屋が昨夜持ち込んだ“影”も、
どこか娘をざわつかせていた。
(話すべきか……まだ早いか……)
胸の奥で迷いが揺れる。
でも今は──
娘の恋に影を落とすべきじゃない。
「美月」
「なに?」
「明日、店休みにするわ」
「えっ……!? どうして?」
「どうしてもだよ。臨時休業だ」
美月はびっくりして目を丸くする。
豊は続ける。
「お前が誰かとちゃんと向き合う日なら……
俺は邪魔するわけにはいかねぇだろ」
「……お父さん……」
胸がいっぱいになった。
そんな美月の顔を見て、豊は小さく笑った。
(……芦屋のことも、いつかちゃんと話さなきゃな)
でも、それは明日じゃない。
今じゃない。
娘の恋がちゃんと始まるなら、
その瞬間だけは守ってやりたい。
美月サイド:帰り道
帰り道、胸の奥がずっと熱かった。
(明日……会える……)
金曜日に言えなかった“言葉の続き”。
それを航平さんが、
明日、自分に言おうとしている。
スマホを胸の前でぎゅっと両手で握る。
(……嬉しい……)
顔が自然とほころぶ。
恋が、また一歩進み始めた夜だった。




