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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第39話 Saturday Morning:知らない影が、恋の輪郭を強くする

土曜日の朝。

 目を覚ました瞬間、胸の奥が少し重かった。


(……昨日の人)


 芦屋。

 お父さんが“ただの知り合いじゃない”顔をした人。


 あの人が来てから、

 金曜日の甘い空気が一瞬で消えてしまった。


 枕に顔を押しつけて、ゆっくり息を吐く。


「……なんだったんだろ」


 航平さんが隣で固まった顔。

 お父さんの低い声。

 芦屋さんの、底が読めない笑い方。


(あんな雰囲気の人、初めて見た)


 怖かったわけじゃない。

 けれど、胸の奥がざわざわした。


(……お父さん、何も言わなかった)


 聞きたい。

 でも簡単に聞いていい話じゃない気がした。


 キッチンでお湯を沸かしながら、スマホを手に取る。


 航平さんからのメッセージは、ない。


(……そりゃそうだよね)


 昨日はあの空気で、

 何もかも中断されたままだった。


 でも、少しだけ……

 “気にしてくれていたら嬉しい”なんて思ってしまう。


(昨日の続き……どうなるんだろう)


 胸がきゅっと締まる。


 本当は、昨日言われたかった。

 言われる覚悟もしていた。


 なのに、言われなかった。


 それが不安で、怖くて、

 でも“言わなかった理由”を考えると胸が熱くなる。


(ちゃんと話したいって言ってたもん)


 芦屋さんが来た状況で、

 続けられるはずがない。


(……だから大丈夫)


 自分にそう言い聞かせる。


 「Bar Toyo」へ向かう準備をしながら、

 鏡の前で髪を整える。


(……変に気にしてるのかな)


 航平さんのことも、

 芦屋さんのことも。


 両方気になって、

 胸の中が忙しい。


(でも……私は)


 鏡の向こうの自分に、そっと言う。


「……金曜日を待ってる」


 それだけは、揺らがなかった。


 出勤すると、お父さんはカウンターで仕込みをしていた。


「おはよ」


「……おう」


 少しだけ声が低い。


(昨日のこと……気にしてるんだ)


 美月が勇気を出して口を開く。


「あの……昨日の人、芦屋さんっていうの?」


「……ああ」


「お父さんの知り合い?」


 豊はしばらく黙って、ため息を落とす。


「知り合いだよ。昔のな」


「どんな……?」


「美月には関係ない。巻き込まれなくていい」


 それ以上、何も言ってくれなかった。


(やっぱり……私が知らなくていい話なんだ)


 胸が少しだけ重くなる。


 けれど、それでも。


(……航平さん、気になるだろうな)


 昨日のあの空気を思い出す。

 航平さんの、言葉にできない緊張。


 守るみたいに近かった距離。


(会いたい……話したい)


 その気持ちは、

 昨日どころか、一昨日よりもずっと強くなっていた。


 昼休憩、

 スマホをひらくがメッセージはない。


(やっぱり、金曜日まで我慢しよう)


 そう自分に言い聞かせる。

 胸が苦しいほど、彼を思っている。


 同時に──昨夜の影のような不安も残っている。


(……でも、私は)


 金曜日の続きを、ちゃんと聞きたい。

 聞く覚悟も、もうできている。


 知らない影が落ちても、

 胸の中の恋の輪郭は、むしろはっきりしていた。


(早く……会いたい)


 その想いが、

 静かに心を満たしていく。


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