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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第35話 Friday Night:触れなくても苦しいほど、あなたが近い

 数秒なのに、

 数分にも感じる沈黙だった。


 カウンター越しに向き合う二人。

 店内の照明はいつもの金曜日より少し暗くて、

 その静けさが、余計に胸を締めつける。


 美月は、息をするのも忘れそうだった。


 航平さんは、

 言葉を探しているように

 ゆっくり視線を落としたあと、また美月を見た。


 その目が、

 まるで気持ちを全部さらわれるみたいに深かった。


(そんな目で……見ないで……)


 胸が、痛いほど熱くなる。


***


 航平が、

 グラスに添えた指をわずかに震わせて言った。


「……美月」


 名前を呼ばれるたびに

 身体が驚くほど反応する。


 声が低くて、優しくて、

 でもどこか決意がにじんでいる。


「この前……話しただろ」


「……はい」


 金曜日に外で交わした、あの言葉。

 “君の気持ちを聞いてから言いたい”と

 彼が言ったあの瞬間。


 美月の心は、またあの日に戻っていく。


「その続き……ちゃんと話したい」


 その一言で、

 胸が一気に跳ねた。


(……来る)


 告白の前の空気。


 言葉にする前の、

 呼吸が触れ合いそうなほど近づくあの感じ。


 身体の奥がじんわり震える。


 航平さんは目をそらさない。


 言葉を選ぶように、

 ひとつ息を吐いてから続けた。


「美月ってさ……」


「……はい」


「いつも、気づかないふりしてるけど」


 ゆっくりと、美月の胸に触れるような声音で言う。


「俺のこと……避けたり、

 逆に近づいたり……どっちもするよな」


「そ、それは……」


 思わず言葉が詰まる。


 避けていたわけじゃない。

 近づいたわけでもない。


 ただ——

 勝手に心が動いてしまっているだけ。


「分かってるよ。

 理由、聞かなくても」


 航平さんの声は、

 ほとんど囁きのようだった。


「……俺も同じだから」


 その瞬間、

 思わず息が止まった。


(同じ……?)


 胸の中が一気に熱くなる。


 航平さんは立ち上がらず、

 身を乗り出しもしなかった。


 ただ、

 “そこにいるだけで”

 美月の心を揺らしてくる。


「ここに来たら……必ず美月がいるって分かってるのに」


 静かな声で続ける。


「それでも毎回、

 “今日もいるかな”って……

 バカみたいに緊張してから入ってる」


「っ……」


 そんなこと言われたら、

 胸が苦しくなる。


「いつも……気持ち落ち着かせてから、

 扉開けてるんだよ」


 その言葉は、

 美月が予想していたよりずっと甘く、

 ずっと切ない。


(そんな……私なんかのことで……)


「美月が……

 どんな顔してるかで……

 その日の気持ちが変わる」


「っ……航平さん……」


「笑ってたら安心するし、

 他の誰かと楽しそうに話してたら……

 すぐに帰りたくなる」


 胸の奥に直接触れられたみたいだった。


(そんなふうに……思ってたの……?)


 気づかないふりなんて、

 もうできるわけがない。


 航平さんはゆっくりとグラスを置き、

 美月をまっすぐ見つめた。


「……もう、隠すのやめるよ」


 その一言で、

 世界が静かになった気がした。


(来る……)


 胸が苦しい。

 でも逃げたいんじゃなくて、

 全部受け止めたい苦しさ。


 そんな気持ちが胸に広がる。


「美月」


 名前を呼ぶ声が、

 今までで一番優しくて、

 今までで一番真剣だった。


「……言いたいこと、いっぱいある」


 その続き——

 あと少しで届きそうだった。


 美月は、

 知らず知らずのうちに息を呑んでいた。


 その瞬間——


店の扉のベルが、

静かな夜を破った。


カラン……


二人の視線がはじかれ、

思わず息を止める。


金曜日の夜は、

まだ終わらない。


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