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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第30話 Friday:言うと決めた日、心臓は勝手に走り出す(航平サイド)

金曜日の朝。

 目を覚ました瞬間から、胸がざわついていた。


(……今日、言う)


 そう決めたのに、

 心臓がまるで先に走りだしてしまったみたいに速い。


 寝返りを打って天井を見る。


(落ち着け……落ち着けよ)


 何度言い聞かせても、少しも落ち着かなかった。


 仕方なく起きて、

 コーヒーを淹れながら深呼吸する。


(昨日……美月、どうしてたかな)


 写真を送らなかった木曜日。

 “静かにしておいてあげよう”と思った。

 でも本音は、自分も落ち着かなかったからだ。


(金曜日まで距離を置きたかった……のに)


 気が抜けると、美月の顔がすぐ浮かぶ。


 笑った顔。

 照れた顔。

 潤んだ目。

 名前を呼んだとき震えた声。


(……もう無理だろ、これは)


 コーヒーを飲みながら、苦笑した。


 開店準備のために店に向かう。


 鍵を開け、

 照明をつけると

 「À mon rythme」はいつもの静けさをくれた。


 でも今日は

 その静けさすら落ち着かない。


(美月……今日、どんな顔して店に立つんだろう)


 想像した瞬間、胸がずるっと熱くなる。


 あの日の帰り際。

 触れそうで触れない距離で言った言葉。


『……会いたかった』


 あの一瞬の表情が、忘れられない。


 嬉しそうで、

 涙をこらえているようで、

 でもちゃんと自分を見ていた。


(あの顔……思い出すだけで心臓が……)


 胸に手を当てて息を整える。


(やばいな、俺……)


 棚の本を整え、

 豆の在庫を確認しながら、

 ふと黒田のことを思い出した。


(……水曜、来てたんだよな)


 美月が“彼の話をした顔”をした時、

 胸の奥が少しざわついた。


(勝てる気がしない……って思ったのは、初めてだ)


 黒田の余裕。

 大人の余白。

 色気と影。


 全部、自分にはないものだ。


(でも……)


 金曜日の美月は、自分を見る顔だった。


 それが、全部をひっくり返した。


 開店時間まであと一時間。


 店内を歩きながら、

 何度も深呼吸する。


(今日……言う。絶対に)


 逃げない。

 濁さない。

 ごまかさない。


 ちゃんと伝える。


(『君が好きだ』って)


 声に出さず思うだけで、

 胸がぎゅっと苦しくなる。


 でも苦しい以上に、

 言いたい気持ちがあふれていた。


 ふとスマホが震える。


 美月ではない。

 配達会社からの連絡だった。


 それだけで——

 少し肩の力が抜けた。


(美月から来たら……今日、耐えられなかったかも)


 笑いながら、胸の奥をそっと押さえる。


(会ったら、絶対……顔が見られないだろ)


 でも会いたい。

 言いたい。

 伝えたい。


(今夜……やっと、話せる)


 胸が高鳴るまま、

 航平はゆっくり店内の照明を整えた。


 まだ開店前なのに、

 心はもう、金曜の夜へ走り出していた。


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