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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第25話 Black Wednesday:指輪が教えるもの(黒田サイド)

 「Bar Toyo」を出た瞬間、

 夜風が少し冷たく頬を撫でた。


 襟元を軽く整えながら、

 黒田はゆっくり歩き出す。


(……あの顔を見せられたら、敵わないな)


 さっきの美月の表情。

 恋に揺れて、でも必死に隠そうとして……

 それでも滲み出てしまうあの目。


 あんな目を向けられたら、

 その相手を応援したくなるのが大人というものだ。


 ただ、少しだけ胸の奥が痛んだ。


(……若い子の恋は真っ直ぐでいい)


 歩きながら、薬指の指輪に無意識に触れる。


 その瞬間——

 豊の言葉がふっと蘇った。


『黒田、お前はさ……

 一度くらい、その指輪“外してみたら”どうだ?』


 カウンターの奥で、

 酒を拭きながら豊が軽く笑った声だ。


『外せって言ってんじゃない、

 “意味”を見つめ直してみろってことだよ』


 黒田は思い返し、苦笑いした。


(……相変わらずだよ、豊さんは)


 核心に触れるようで触れず、

 でも鋭い。


 豊には全部見透かされている気がする。


 この指輪をなぞる癖も、

 隠しているつもりの事情も。


(俺なんかが言うことじゃないけど……)


 美月には

 ああいう“影”とは無縁の恋をしてほしいと思った。


 信号待ちの間、

 ふと店の方向に目をやる。


(……幸せになるだろうな、あの子は)


 黒田はそう思う。


 余裕のある笑顔の裏で、

 少しだけ寂しさも混じる。


(昔の俺が見たら、笑い飛ばしてただろうけどな)


 でも今は違う。


 恋に落ちる瞬間のきらめきも、

 胸が苦しくなるほど誰かを思う感覚も、

 全部——

 取りこぼしてきたからこそ分かる。


(豊の言う通りだよ……)


 指輪をそっと押さえる。


(“意味”を見つめ直す時期なのかもしれないな)


 そう呟くように思った。


 青になり、

 黒田はゆっくり歩き出す。


 次に「Bar Toyo」に行くとき、

 美月はますます恋の顔をしているのだろう。


 嫉妬はしない。

 むしろ楽しみだ。


 あの子の恋が、

 どんな色に変わっていくのか。


(……金曜の男か)


 黒田は小さく笑った。


 自分では選ばれない恋でも——

 その行方を見るのは嫌いじゃない。


 夜の街に溶けながら、

 黒田は静かに歩き続けた。


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