第22話 航平サイド:届いた月の写真が、胸の奥を温かく満たしていく
カーテンを閉めた部屋で、
コーヒーを淹れながらぼんやり空を見ていた。
外は薄く雲が流れていて、
さっきまで丸く見えていた月が
少しずつ隠れたり顔を出したりしている。
(……今日、送って良かったんだろうか)
迷った末に送った一枚の写真。
月がきれいだった。ただ、それだけだった。
でも——
“同じ月が見れたらいい”
そう一行添えたのは、
ただの偶然じゃなかった。
(会いたいんだよ……本当は)
言葉にする代わりに写真を送っただけだ。
スマホが震える。
(……美月?)
画面には一枚の写真。
ビルの隙間から、
ようやく覗けるほどの小さな月。
(……探してくれたんだ)
胸がじんわり熱くなる。
その写真には、
“それでも同じ月を見たい”
そんな想いが静かに滲んでいた。
文字が添えられていた。
『今の月はビルの影に隠れて、やっと見つけた月です。
もうすぐ自宅なので、ベランダからもう一度見てみますね』
“やっと見つけた月”——
その言葉が、胸に刺さる。
(そんなふうに……俺の写真を見てくれたのか)
愛しくて、
切なくて、
どうしようもなく嬉しかった。
数分後。
またスマホが光る。
『ベランダからも月、見えました。
さっきよりずっとよく見えます。
同じ月、見れてたらいいなって思いました』
(……無理だろ、こんなの)
胸の奥が一気に熱くなる。
ビルの隙間から覗く“小さな月”。
ベランダから見える“大きな月”。
どちらの写真にも、美月の心が映っていた。
(同じ月、見れてるよ)
声に出さず、
胸の中でそっと呟いた。
窓を開けて夜空を見上げる。
ちょうど雲が切れ、
丸い月が静かに光っている。
(……今、君もこれ見てるのか)
たったそれだけで、
胸がじんわりと温かく満たされていく。
返信しようとスマホを持ったまま、
指が少しだけ止まった。
(……言いすぎるのは違う)
金曜日に言うと決めた。
今日のこの温度は、
写真と短い一言だけで十分に伝わるはず。
深呼吸して、
静かに文字を打つ。
『見えてるよ。
同じ月』
それだけ送った。
でも胸の奥では——
(美月……早く会いたいよ)
その想いが、
静かに、でも確かに膨らんでいた。
カーテンを閉めた後も、
月の光が胸の奥でずっと灯っているようだった。
(金曜日……必ず言う)
窓の外の月を思い出しながら、
航平はそっと目を閉じた。




