航平サイド Friday Night 言えなかった言葉が、胸の奥で熱くなる。
部屋の明かりを点けずに、
キッチンに直行して水を一杯飲む。
冷たい水なのに、
喉の奥が熱くて落ち着かない。
(……言えなかったな)
告白するつもりだった。
全部話す気でいた。
でも、
美月が見せたあの顔を思い出すと——
息が詰まるほど胸が締めつけられる。
『……会いたかった』
ただそれだけで、
あんなふうに目を潤ませるなんて。
(あれ以上続けたら……泣かせてたかもしれない)
泣かせたいわけじゃない。
ただ、大事にしたいだけなのに。
難しいな……恋って。
着替えながら、
何度も美月の表情がフラッシュバックする。
名前を呼んだ瞬間に震えた声。
入口の写真を見たと言ったときの赤い頬。
自分を見つめ返した、あの真っ直ぐな瞳。
(……かわいすぎるよ)
不思議だった。
美月は派手でもないし、
積極的でもないし、
恋慣れしてるタイプでもない。
それなのに。
(どうしてこんなに気になるんだろうな……)
わからない。
でも、わからないままでいいと思った。
好きになる理由なんて、
いつも後から気づく。
ベッドに横になり、
天井を見つめる。
(今日……どんな気持ちで眠るんだろう、美月)
嬉しい?
不安?
苦しい?
期待してる?
(……全部だろうな)
自分がそうだから。
会いたくて、
怖くて、
嬉しくて、
苦しくて。
恋の全部が心に渦巻いている。
ふと、
黒田の横顔が頭をよぎる。
(……来週の水曜日、また会うんだろうな)
その事実に少し胸がざわつく。
(美月……あの人の言葉に流されないといいけど)
黒田は人を惹きつける。
豊も「気をつけろ」って言っていた。
でも——
今日の美月の顔を思い出す。
(……大丈夫か)
自分に言い聞かせるように、
ゆっくり息を吐いた。
美月が見ていたのは、
自分だけだった。
あれは、勘違いじゃなかった。
(……信じていいよな)
安心よりも、
その優しさの方が胸に染みた。
スマホを手に取る。
メッセージは来ていない。
(……送らなくていい)
むしろ、その沈黙が良かった。
言葉がなくても、
伝わっている気がした。
「……美月」
名前を小さく呼んで、
目を閉じる。
胸の奥で、
言えなかった言葉がじんわり熱くなった。
(好きだよ……
次こそは言うからな)
心の中でそう呟いて——
いつのまにか眠りに落ちていた。




