第14話 Friday(夜の余韻):眠れないほど、恋があふれた夜
家に帰り着いたのは、日付が変わる少し前だった。
(……苦しい……)
胸の奥が、熱くて、跳ね続けている。
お風呂に入っても、
服を脱いでも、
髪を乾かしても。
どんな瞬間も、航平さんの声が頭の中から離れなかった。
『最近、仕事してても……君のことばかり考えてる』
心臓がまた跳ねた。
(やばい……あれ思い出すたびに息が苦しくなる……)
足元がふらふらして、
ベッドに倒れ込んだ。
天井を見ながら、
私はゆっくり手を胸に当てる。
(こんなに……誰かの言葉で揺れるんだ……)
“会いたかった”
あの低い声。
目を逸らさずに向けられた、あのまなざし。
その全部が、
胸の奥でじんわり光っている。
触れられていないのに、
まるで触れられたみたいに身体が熱くなる。
(……好き、なんだ)
言葉にした瞬間、
涙がにじんだ。
苦しい。
でも、嬉しくてたまらない。
航平さんの顔が、怖いくらい思い出せる。
照明に照らされた横顔。
少し乱れた髪。
目元の疲れた影。
柔らかいけど真剣な声。
(あれ……私のこと見てる顔だったよね……?)
自信なんかない。
でも、希望はあった。
さっき言われた言葉が、
胸の奥で何度も反響する。
『君の気持ちを、ちゃんと聞いてから言いたいんだ』
(じゃあ、まだ……言ってないだけで……)
私の気持ち次第で、
未来が変わっちゃうんだ。
そう思った瞬間、息が止まった。
(……嬉しい……)
なのに、泣きそうなくらい怖い。
スマホを開く。
通知は来ていない。
(……来なくていいよ)
だって、
来たらまた心臓が暴れる。
でも来なかったら来なかったで、
胸が寂しくなる。
(恋って……忙しすぎる……)
指で画面をなぞりながら、
航平さんからの“入口写真”をもう一度開いた。
扉に灯る温かい光。
そこに宿っていた“会いたい”の意味。
(……明日も、見たい)
そう思った瞬間、自分でも驚いた。
布団に潜ると、
熱が胸に広がって、全然眠れない。
(どうしよう……)
明日、会ったら顔見られないかもしれない。
でも会いたい。
早く会いたい。
けど怖い。
(人生でこんな気持ち、初めてだ……)
枕に顔を埋めた。
「……好き……」
小さく言葉にしたら、
また涙がこぼれた。
幸せと不安が、同じ場所にある。
それが恋なんだと、
胸が教えてくれていた。
夜は深く、
外の風は静かだった。
でも私の胸の中だけは……
ずっと航平さんの声が響いていた。
『会いたかった』
(……私も)
想いが溢れすぎて眠れない夜。
初めて、こんな恋をした夜。




