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妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


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第11話 Thursday:会えない日のほうが、恋は深くなる

木曜日の朝。

 目を覚ました瞬間から、胸が苦しい。


(会いたい……)


 まだ会ってもいないのに、

 恋をしただけで、

 世界ってこんなに変わるんだ。


 胸の奥がずっと、温かくて、痛い。


 昨日の黒田さんの言葉が頭から離れなかった。


『名前を聞くだけで顔が赤くなる相手なんて、

 そうそういないよ』


 あの瞬間、私はもう誤魔化せなくなっていた。


(航平さん……)


 写真を見るたびに、

 胸がぎゅっと掴まれる。


 恋って、本当に苦しい。


 夜。

 「Bar Toyo」のカウンターに立っていても、

 心はどこか遠くにあるようだった。


 艶のある照明も、

 グラスの音も、

 いつもと同じなのに——


(……明日、金曜日)


 それだけで心臓が跳ねる。


 でも、“今日”は来ない。


 分かっているのに、

 扉を見るたび胸が反応してしまう。


「美月」


 豊が声をかけた。


「ん……?」


「今日はやけに静かだな。

 ……いや、静かっていうより、落ち着かねぇって顔だな」


「えっ、そう……?」


 誤魔化したけれど、

 豊は苦笑して言った。


「まぁいい。

 恋してると人は落ち着かねぇもんだ」


「ちょっ……お父さん!」


「図星か?」


「ち、違……っ、違くないけど……」


 違くない。


 自分でも驚くぐらい、

 胸がいっぱいだった。


 豊はグラスを拭きながら、

 視線をそらさずに言った。


「美月。

 焦んなくていい。

 お前は急ぐとこじゃねぇ手をしてる」


「……どういう意味?」


「ちゃんと相手見て、

 大事にする子だって意味だよ」


 その言葉が胸に染みた。


(……ありがとう)


 閉店間際。

 スマホが震えた。


 胸が跳ねる。


(……また写真?)


 開いた瞬間、息を飲む。


《夜の高架下》


《静かな川沿い》


《薄く光る街灯》


どれも綺麗で、

どれも航平さんの静かな優しさが滲んでいた。


そして、最後の一枚。


《À mon rythme の入口》


今日は、いつもより近い角度。

扉の隙間から、店内の柔らかい光が見えそうなほど。


胸が、ぎゅっと痛い。


その下に、一行。


《明日、ちゃんと話す》


息が止まった。


(ちゃんと……話す……?)


 嬉しい。

 でも怖い。

 でももっと嬉しい。


 涙が出そうだった。


(明日……会えるんだ)


 恋って本当に——

 どうしてこんなに苦しくて、

 なのに怖いほど幸せなんだろう。


 胸を押さえながら、

 私は静かに目を閉じた。


 金曜日が、

 こんなに遠いなんて知らなかった。


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