表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想恋愛ばかりしていたら、金曜日に本物がきた。  作者: つなかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/113

第97話 水曜日──動き出す未来と、揺れ続ける父の胸の奥(美月+豊サイド)


〔美月サイド:夕方が待ち遠しい水曜日〕


 水曜日の朝。

 目が覚めた瞬間から胸がそわそわしていた。


(……今日、不動産屋さんに行くんだ)


 航平と“住む家”を探しに行く日。


 慣れた水仕事をしながらも、

 胸の奥が落ち着かず、気がつけばスマホを確認してしまう。


 昼すぎ、航平からメッセージが届いた。


『17時に店を閉める。

 そのまま不動産屋に行こう』


(……楽しみすぎる)


 思わず頬が緩む。


 夕方の仕込みが落ち着いたころ、

 豊がふらりとカウンター裏に顔を出した。


「……今夜、不動産屋だろ?」


「うん。17時に航平さんが迎えに来てくれるの」


「そうか」


 ほんの一瞬だけ豊の目が細くなる。


「家を決めるのは急ぐな。

 いいと思っても、一回は冷静に見直せ」


「わかってるよ、お父さん」


 優しいのか、心配なのか、背中を押しているのか。

 その全部が混ざった父の声だった。


(……でも、嬉しい)


 豊が反対しないどころか、

 不動産屋の名刺まで渡してくれた。


 家族の形が変わっていく寂しさより、

 娘の幸せを優先してくれる父。


 それが胸に響いた。



17時少し前。


 店の前に、いつものコート姿の航平が立っていた。

 小さく手を上げて笑う。


「お疲れ。行こうか」


「うん!」


 並んで歩きながら、美月の胸はもう期待でいっぱいだった。



〔豊サイド:水曜の夜──胸の奥のざわつき〕


 店に美月と航平の姿がなくなり、

 「Bar Toyo」にはゆるく夜の気配が広がっていた。


 カウンターを磨きながら、豊は心の中で静かに呟く。


(……あいつら、本当に動き出したな)


 嬉しい。

 でも、寂しい。


 心はゆっくりと前に押されていくが、

 そのたびに、ある名前が背中を引く。


──芦屋。


(あいつ……そろそろ来る頃か)


 土曜日の個展。

 チケットは航平に預けた。

 美月にはまだ何も言っていない。


 本当に連れて行っていいのか。

 あの絵を見せていいのか。


 娘の幸せの前に、

 “過去の影” をどう扱うか結論が出せない。


(玲子……俺はまだ答えを出せていない)


 グラスを並べながら思う。


 美月の未来は明るい。

 一緒に住む家を探しに行く今夜、

 きっと笑顔で帰ってくるだろう。


(だったら……俺ももう前に進む準備をしないとな)


 呟いた瞬間、入り口のベルが鳴った。


「こんばんは、豊さん。ひとり?」


 常連の声に表情が和らぐ。


「おう。好きな席座れ」


 誰かのために灯り続ける店。

 その奥で、豊の胸だけがまだ静かに揺れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ