初動
スズヒ視点
——俺はこの世界で、生きていく。
そう決めてから初めての朝を迎えた。 扉の隙間から部屋に光が差し込む。
町へ行くか。おっとその前に、本棚にあるモノをもらっていかないとね
そうして本棚の下をのぞいてみるとこれこれ、そこには1つの指輪があった。
ーー露鏡のリングーー
・生活魔法 水
・状態異常 緩和
コレですよ~コレコレ♪
このリングはアナセカのゲームで登場した指輪だ。指に装備するだけで毒や呪いを緩和してくれる優れものだぜ。しかも、現実となった今では使い勝手の悪かった生活魔法が地味にありがたい。
早速、水を出してみる。ん~たしか小説だと「呼吸と合わせて体内のエネルギーを循環させる感覚を意識しろ」ってマギスの師匠が言ってたな
こうか?
途端にリングからすさまじい勢いで水が飛び出し床がびしょ濡れになった
「うぇぇ?!」
そして体から抜ける感覚が襲ってくる。これが魔法か~なるほどなるほど。
そうして、もう一度発動してみる。こんどは制御をイメージして~
ほいできた! 空中に水が浮かび形作ることに成功する。
これきついな。そう思いながらも水を飲んでみると、
うっっっまぁ!!
これで水問題は問題ないだろう。
いったんは回復するまで休憩だな…
~~~1時間後~~~
よし! 道草食っちまったけどそろそろ行くか!!
「お世話になりました」
部屋を軽く見渡し、軽く一礼して俺は扉を開けた。
眩しい日差しが俺を照りつける。
ここからは、時間との勝負だ。なるべく早くダイコックへ行かなければ。
幸いにも湖から町への道は細道だが存在する。
俺は全速力で町の方へ駆け下りていく。ダイコックの町と湖の間には森が存在するが、強いモンスターなどは存在しない。けれど、だからこそ山賊が多く根城を作っている。
俺は武器を持っていないからモンスターでも山賊でも、出会ったらきついぜ。
子供だましの水魔法で隙を作って逃げるしかない。
そう考えながら、森を抜ける道を全力で走っていた。
息が切れる、足はガクガク。でも止まったら死ぬ。いや、止まらなくても死ぬかもしれん。
そんな軽いノリで自分を鼓舞しながら、俺は突き進む。
と、前方から「うわあああ!」という絶望的な叫び声。
――嫌な予感しかしない。
立ち止まって木の陰から覗くと、案の定だ。旅人っぽいおっちゃんが山賊に囲まれてる。
三人。武器持ち。めっちゃ楽しそうに脅してる。てかもうヤッチャッテル
「やめ…」
旅人は既に限界だ。胸が赤い。
俺の頭に浮かぶ二択。
①助ける(そして死ぬ)
②逃げる(そして生きる)
……いや、③があるな。
“ごまかして逃げる”。……コレだな。
俺は息を整え、そっと木の枝を拾う。そして、茂みの奥に「ポトッ」と落とした。
音が響く。
「ん? 誰だ!」山賊が一斉にそっちを見た。
はい、その隙!
必殺、水鉄砲!!
山賊の顔にすごい勢いで水がかかる!
「なんだ!」
目をつぶったその瞬間、
俺はしゃがんで、10歩先に倒れてる旅人の近くまで滑り込む。
そして、胸ポケットからはみ出た金属の板と小袋をサッと抜き取る。
「すみませんおっちゃん、SDGsだから」
心の中でだけ手を合わせ、即ダッシュ。
声は出さない。叫んだらアウトだ。
静かに、でも全力で走る。
背後から怒鳴り声が上がる。
「子供だ!捕まえろ!」「ぶっ殺せ!」
……いや、子供だし、捕まったら死ぬんですけど!?
息を切らせながら森を抜けると、視界の先に見えてきた。
石の壁、鉄槍、そして衛兵。ダイコックの町だ。
「おおっ……文明の匂い……!」
と思ったのも束の間、背後からバキバキと枝を踏む音。ちかいちかいちかい!
やばいやばいやばい!
でも、逆に衛兵の前に連れていけば、俺の勝ちだ。
興奮と恐怖の中、俺は全力で飛び出した。
「ぬあああああっ」
検問の前に飛び込み、衛兵たちの前でずざぁっとスライディング。
衛兵が一瞬きょとんとする。
「な、何者だ!?」
その直後、山賊たちが現れる。
衛兵「山賊か!?」
山賊「クソ!…追いすぎた!」
俺「タシュケテぇぇ!…」
パニックの中、山賊は右往左往。
「撤収だ撤収ーッ!」
とリーダーが叫び、あっという間に逃げ出す。
一部のマヌケは衛兵に突っ込んでって、見事に槍で受け止められていた。
「うわっ、いたぁ!?」とか悲鳴上げてる。うん、因果応報。
戦闘は一瞬で終わった。
俺? いや観客。
土煙の中で、俺はこっそり息を整えながら、懐の身分証を確認した。
「……これ、使えそうだな」
刻まれた名前は“アナート”。
おっちゃん、俺が次の人生でちゃんと使うわ。ありがとう。
衛兵の一人が近づいてきて、俺をじろっと見る。
「お前……何もんだ?」
俺は目を泳がせながら、ちょっと震え声で言った。
「旅人の見習いで。森で……襲われて……」
「ふむ。ご苦労だったな」
なんか信じてもらえた。マジか。
「事情聴取させてもらうぞ」
「デスヨネー」
衛兵は腕を組みながら「怪しすぎるからな」と一言
そうして俺はドナドナされた。
ーー二時間後ーー
何とか俺は旅人のアナートさんに拾われて、身分証を預かっていたって話をでっち上げることに成功した。
もちろん、話の10割はフィクションだ。
けど衛兵のおっちゃんは、途中から眉をひそめつつも真面目に話を聞いてくれた。
「お前、怖かったろう。森であんな奴らに出くわしたら誰だって腰抜かす」
「い、いやまぁ……そうですね」
「町の北にはしばらく近づくな。あの辺は山賊の抜け道だ。お前みたいな若いのが一人で歩くと狙われる」
やけに心配してくれる。
この世界にも“優しいおっちゃん”枠があるとは思わなかった。
一瞬だけ、前世で助けてくれた警備員のおじさんを思い出す。
「そいや、お前名前は?」
「名前は……ないです。孤児だったので」
嘘は言ってない
「じゃあ、アナートからなんて呼ばれてたんだ?」
眉間にしわを寄せておっちゃんは不思議そうに問うてきた
「せがれと……ただそれだけ」
ここで俺は涙ぐみ、斜め45度にクビを倒しうつむく。完璧なムーブ
おっちゃんはいたたまれない顔で
「……気をつけろよ」と一言。
「は、はいっ。ありがとうございます」
そうして、俺はなんとか話をまとめきった。
結果的に、「俺=ちょっと運の悪い旅人の卵」という設定で通ったらしい。
魔法印での犯罪検査もあったけど、引っかからなかったのも理由にあるとおもう。
なんもやってないけどびびったわ……
ついでに、おっちゃんとの会話でこの世界の時期が分かった。
この世界は、物語の1年前。つまり、まだマギスが旅立っていない時期だ。
俺は準備できる時間があることにホッとした。
こうして、無事?俺は町の中へ滑り込む。
既に町では山賊捕縛だ、功績だと盛り上がっている。
俺は小説の記憶をたどりながら闇市へ向かい、趣味悪そうな雰囲気の店に入る。
残念ながら、若造と取引してくれるところは少ない。
正直、この店知らなかったらカモにされてたな。
鼻につく香と鉄の匂いが混ざり合っていて、いかにも“裏”って感じだ。
カウンターの奥にいた老商人に小袋を渡す。老商人は小袋を手に取るとニヤリと笑った。
アナートの小袋には回復薬の材料となる薬草が入っていた。回復薬は一定の需要があるから薬草が売れる。
「ほぉ、いいブツじゃねぇか。なんでテメェがこの薬草を持ってるか知らんが、坊主がもっても宝の持ち腐れだ。銀貨1枚でどうだ」
「安すぎ……。せめて四枚!」
「そりゃ無理な話だ。せめて二枚半だ!」
「それでいいや。商談成立(妥協は大事)」
銀貨を受け取って、安物の小刀を一本買う。
錆びてるけど、形は悪くない。腰に差して、鏡代わりの鍋に映る自分を見る。
うん……なんか、スラムのガキ感出てきたな。
「スラムの新入りAとしては完璧だな」
そう呟いて笑う。
森で人死に目撃、山賊に追われ、衛兵を巻き込んで逃げ込む——
普通ならトラウマものの一日。
でも今の俺には、不思議と達成感があった。
「さて、今日も生き延びたぞ。次は……宿と飯だな」
そう言って、俺はスラム街の暗がりへと歩き出した。
どこかで人の叫び声が聞こえる。
ほんと、「アナセカ」の世界ってろくでもねぇな!
そう一人つぶやきながら俺は笑顔だった。




