28日前の剥がれ落ちた私
今日の私は、昨日の私と同じではない。
湯船に浸かっていると、目の前に垢が浮かんできて、そんなことを考えた。
人間の皮膚細胞は、およそ28日で入れ替わるらしい。
垢を手のひらですくって、湯船の外に流した。つまりこれは、28日前の私だ。
「あー……」という声をあげると、お風呂の中に頭のてっぺんまで浸かった。水の浮力がかかって、髪の毛がふわりと浮く。
──28日前のことは、いまいち思い出せない。
私は水面から顔だけ出して、ぼんやりとお風呂場の明かりをながめた。
付き合っていた人と別れたのは、一ヶ月前のことだ。もうそのときの皮膚細胞は自分に残っていない。
「スッキリするね」
私のつぶやきはお風呂場に響いたが、私自身はあまり釈然としていなかった。嫌な記憶というのは厄介だ。
お湯から頭を出して、口元まで湯船に浸かる。息を吐き出すと、ぶくぶくと泡がたった。
元彼への文句が泡になって消えていった。
【おわり】




