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拳技の王  作者: いろは
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出会い

朝の食堂での騒動の後片付けを学園メイドのソフィアさんと終えた僕は他の生徒からの冷ややかな視線から逃げるように急いで食事を済まし、寮に戻っていた。


「取り合えず、この石を拾ったことであの精神世界みたいな場所にいったんだよなぁ…それに「トール」とかいう変なおじいさんはいったいなんだったんだ…」


机に向かい、中等部時代に使っていたこの国の歴史の教科書を引っ張り出し、くまなく調べたが「トール」なんて名前は一言も出てこなかった。


「んーーーー」


頭をひねりながら黄土色に輝く先ほどの石を机の上で転がす。

先ほどは少し触れるだけであの世界に飛ばされたのだが……何も起きない。

あれも魔法の類なのだろうか。

実際、転移魔法は存在するが非常に高度な技術が要求され、限られた人間しか使用できない。

そのため中央国であるアズリビアですら、馬車や蒸気機関車が主な移動手段だ。

たまに一部の富裕層が蒸気自動車を持っているらしいがほとんど見たことは無い。

この黄土色の石がそれらよりはるかに貴重で利便性に優れる転移魔法の道具であるならもしやと思ったがのだが…


「いっそ砕いてみるか…」


僕は剣の修繕用のハンマーを振り上げる。

よくわからんがたたけば何かしらの反応があるだろう。

振り下ろそうとした瞬間、視界がまたあの空間になる。


「お前、怖いわ。使い方がわからないからハンマーで叩こうって」


後ろからトールが語り掛けてくる。

気づけば僕の手からハンマーがなくなっていた。


「いろんな人間が己の願望をかなえるためにワシを求めたがいきなり叩き割ろうとしてきたのはお前が初めてじゃ。」


心なしかトールが引いている。


「ご、ごめんなさい」


謝る僕にため息をつきながらトールが不満げに続ける。


「ワシが反応しなかったのには理由がある。おぬし…剣などをふるておるのか?」


僕の部屋にあった剣のことを言っているのだろうか。

あれはこの学校に入学したと同時に学生に配布される。剣だ。実践練習用の剣なのでちゃんと刃がある。僕が今朝ふるっていた木刀とはわけが違う。


「そうだけど…そりゃリンドヴァースに入学して剣を学ぼうとしているんだからそりゃそうでしょ。」


何をおかしなことを…と僕はトールに言葉を返した。


「あー嫌じゃ嫌じゃ。良いか?ワシと契約した以上、剣の使用は一切禁止じゃ。道具に頼って追っては人間はいつまでたっても強くなれん。っていうか拳で戦え。このワシが直々に指南してやろう。」


「それは出来ないよ!剣を学ぶために必死にこの学園に合格したんだから!トールの復讐はそのうち暇なときにできたら多分やるよう検討するから!」


「絶対やらんではないか!何じゃそのふにゃふにゃの約束は!」


あ、やる気がないことがバレた。

しかし、剣をやめるのは実際むずかしい。剣を学びにリンドヴァース学園に来たのに…

面倒だなぁと僕がため息をつくとトールがあきらめたように話し出す。


「…わかった。お主にも剣を極めたい理由があるのじゃろう。そこでだ!剣も剣も同時に究めればよい!名案じゃろ?!」


「あーうんそれでいいよ…」


あきらめたように承諾するがこのじじい本当にめんどくさいなぁ


「そうと決まれば早速稽古じゃ!見たところお主もなかなかの良い肉体をしているがワシの全盛期と比べるとまだまだ甘い。」


トールがうきうきでまくしたてる。

今日は学園が休みなので可能ではあるが嫌だなぁ

学期が始まる前に課題を終わらせたいし、日用品の買い出しにも行きたいし…


「うだうだ言っておらんとさっさと行くぞ!」


何も言っていないのだが…心を読むな…

次の瞬間視界が自室に戻る。

トールがいなくなった…

あれ、もう無視したらいいのではなかろうか。

こっちの世界に戻り石にさえ触らなければトールと会うこともないだろう。


「なーにが拳だよ。道具使ったほうが強いに決まってるでしょ。」


僕は黄土色の石に対してそうつぶやき、自室を出ようとした。


「実際、体感したほうが早いかもしれんな。」


トールの声が背後から聞こえた。


「え?」


ここは僕の部屋だぞトールどころかほかに人すらいないのに。

急いで振り返ると声の主が分かった。

壁に立てかけてある学園配布の剣だ。鞘から剣を取り出すと剣の刃の部分にトールが映っている。一体どういう原理なんだ。


「ワシは剣が嫌いじゃがどうもお主はこいつにご執心のようなのでな。ここをワシの住まいとさせてもらう。」

なんと勝手な。それにこれは学園の授業で使う剣だぞ。

「えー嫌だなぁ、これ学園に持ってかないといけないのか。また変な目でみんなに見られるじゃないか。」


僕は剣をまじまじと見ながら渋い顔をする。


「ほー、ワシが周りの人間から見える範囲が狭くなれば良いのじゃな?」


「そ、そうだけどそんなことできるの?」

ニヤニヤとトールが話す。

嫌な予感しかしない。


「ほれっ」


トールが剣の中で軽くはじく動きをすると同時に鋭い金属音が部屋に鳴り響く。


パキィィィン


剣が柄の部分から少し先だけを残し折れてしまったのだ。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?なにしてるんだよ!」

おいおいおいおい!学園から配布された剣だぞ!初めての剣で毎晩わが子のように愛した剣だぞ!こんのクソじじぃ!!

怒り狂う僕を眺めながらトールが楽しそうに話す。


「脆いのぅ脆いのぅ。ワシにかかればこんななまくら一撃じゃわい。」

トールがひとしきり笑い終えると真面目な表情に変わり話始める。


「剣を極めるとなれば剣技の王を超えるということ。ワシの知る剣技の王の始まりは戦場に転がっていた折れた刃で戦い続けたのが始まりじゃ。お主もそれぐらいの心構えがあっても良いじゃろう。」


確かに中等部の教科書にそのような逸話はある。

剣技の王はただの一般兵だったが、初めての戦場で鬼神のような立ち回りで敵兵を打倒したという。その際に握られていたのが折れた剣だったという話だ。


「そ、そうだけど…」


僕はその話が好きだ。その話を出されるとは思わず少したじろぐ。


「折ってしまったものはしょうがない!切り替えていけ!早速演習場に向かうぞ!」


無理やり話を終わらせたトールに急かされながらしぶしぶ部屋を出ようとした時、ノックが部屋に響く。


「レイ~、なんかすごい音がしたけど大丈夫~?」


聞きなれた女性の声に僕は少し慌てる。


「トール!少し黙っててね!君が周りにバレると絶対に面倒だから!」


小声で僕はトールに話しかける。


「わかった。ではワシは少し下がるとしよう。」


そう言い残すとトールは剣から姿を消した。

え、そんなことできるなら剣折る意味あった?


「レイ~開けるよ~」


そういうと淡いウェーブのかかった髪の毛と尖った耳が特徴的な美しい女性が顔を出した。


「ㇱ、シフル!僕が返事してからあけてよぉ!」


この女性は「シフル・パール」。エルフの僕の幼馴染だ。


「いいじゃない。私とレイの仲なんだから。それより何よさっきの音……あっ…」


シフルが僕の握る折れた剣を見て察する。


「これ…やばいかなぁ…」







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