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8.魔法と科学の境界で

研究所の大実験室は、かつてない活気に満ちていた。

各研究室から集められた装置や道具が所狭しと並び、大勢の研究員たちが忙しく行き交う。中央には巨大な魔法陣が描かれ、その周りでリーシャたちが新型の循環システムの構築を進めていた。

「この結晶の配置で、魔力の流れが安定します」

結晶工学の専門家が、青く輝く結晶を魔法陣の要所に設置していく。

「気圧の変化に注意して」

気象魔法科のベテランが、魔力の気流を測定しながら指示を出す。

諒は分析スキルを使い続けて疲労の色を見せながらも、全体の調整に没頭していた。

「諒、休憩を」

リーシャが心配そうに声をかける。

「大丈夫です。それより、この数値を見てください」

諒が示したデータに、リーシャは目を見開いた。

「魔力の循環効率が、予想を遥かに上回っている...?」

「ええ。でも、それと同時に気になることが」

諒は魔法陣の一角を指さした。そこでは、魔力の流れが不自然なねじれを見せていた。

「この歪みの原因が分からないんです。理論上では起きるはずのない現象なのに...」

エレナが古書を手に近づいてきた。

「あの...これを見てください」

彼女が開いた頁には、複雑な魔法陣が描かれていた。そして驚くべきことに、その一部が諒たちが観察している歪みと酷似していた。

「これは...三百年前の大災厄の直前に観測された現象の記録です」

三人は息を呑む。その時、実験室の入り口でカインの声が響いた。

「おい!街の状況が急変している!」

窓から外を見ると、街の上空に不気味な光の渦が形成され始めていた。

「まさか...」

リーシャの顔から血の気が引く。

「私たちの実験が、何かのきっかけに...?」

エレナが震える声で言う。

その時、諒の分析スキルが、予想外の光景を映し出した。

「これは!魔力の流れが...入れ子構造になっている!?」

「どういうことですか?」

マーカスが近づいてきた。魔力を失ってなお、その眼差しは鋭い。

「私たちの作った循環システムが、既に存在していた別の大きな循環と共鳴を始めているんです。まるで...」

「まるで?」

「まるで、私たちの知らないところで、この世界全体に巨大な魔力循環システムが存在していたかのように」

諒の言葉に、実験室が静まり返った。

「古代の人々は知っていた...」

エレナが古書を強く握りしめる。

「彼らは世界の魔力システムを理解していて、それを壊さないよう魔法を設計していた」

「でも、現代の私たちは...」

リーシャが言葉を続ける。

「その知識を失い、無秩序に魔力を消費し続けた」

「そして今、世界のシステムが限界を迎えている...」

諒が結論を出す。

実験室の窓を突き抜けて、不気味な轟音が響いてきた。街の上空の渦が、さらに大きく成長している。

「諒!」

リーシャが叫ぶ。

「どうすれば...」

諒は一瞬目を閉じ、前世での物理学の知識と、この世界での発見を頭の中で必死に結びつけようとしていた。

そして、目を開けた時、彼の表情には確かな決意が浮かんでいた。

「方法があります。でも...かなりのリスクを伴う実験になります」

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