3.暴走する魔法
「緊急事態です!第七研究室から異常な魔力反応が!」
諒とリーシャが共同研究を始めてから二週間が経過したある日、研究所全体に緊急警報が鳴り響いた。
「第七研究室…武具強化魔法の研究室ね」
リーシャの表情が険しくなる。
「行ってみましょう」
「えっ、でも…」
「あなたのスキル、役に立つかもしれないわ」
二人が第七研究室に駆けつけると、そこには既に数名の研究員が集まっていた。研究室の扉は固く閉ざされ、内部から不気味な魔力が漏れ出している。
「どうなっているんです?」
諒が近くの研究員に尋ねる。
「新型の魔法剣の実験中に暴走が…中には三人の研究員が」
その時、廊下の向こうから急ぎ足の音が響いてきた。
「どけっ!」
颯爽と現れたのは、一人の若い騎士だった。漆黒の剣を携え、鋼のような眼差しで状況を見渡している。
「カイン隊長!」
周囲の研究員たちが声を上げる。
「王立騎士団、カイン・ブレイブハートだ。状況は?」
「中の魔力が暴走して…」
リーシャが手短に説明する。
諒は既に分析スキルを駆使して、扉の向こうの状況を観察していた。すると—。
「これは...まずい」
「何が見えるの?」
リーシャが問いかける。
「魔力の暴走は、武具に組み込まれた強化魔法の共鳴が原因です。しかも、その波長が…」
諒は一瞬考え込み、決意を固めて口を開いた。
「カインさん、扉を開けてください」
「おい、危険だぞ」
「大丈夫です。私に考えがあります。リーシャさん、氷の壁を作れますか?」
リーシャは一瞬諒の目を見つめ、小さく頷いた。
「ええ、任せて」
「よし、行くぞ!」
カインが剣を構え、扉に向かって突進する。
鋼鉄の扉が粉々に砕け散る。同時に、リーシャの氷の壁が廊下を覆い、暴走する魔力から一行を守る。
内部の光景に、全員が息を呑んだ。
研究室の中央には、青白い光を放つ魔法剣が浮遊している。その周りで三人の研究員が倒れ、剣から放たれる魔力の波動に苦しんでいた。
「カインさん、研究員を!リーシャさん、氷の壁で魔力を制御して!」
二人が即座に動き出す中、諒は分析スキルを最大限に働かせていた。
魔法剣の中で暴走する魔力の流れ。その波長と周期。そして、それを抑制する方法—。
「こうすれば…!」
諒は持参していた試薬を取り出し、素早く混合する。出来上がった溶液を、魔法剣に向かって放った。
刹那、青白い光が輝きを増す。しかし次の瞬間、その光は急速に弱まっていった。
「魔力の波長を打ち消す逆位相の反応を起こしたのね」
リーシャが理解したように呟く。
カインが気絶した研究員たちを安全な場所に運び終えた頃には、魔法剣の暴走は完全に収まっていた。
「さすがだな」
カインが諒に歩み寄る。
「俺は魔法のことは詳しくないが、お前の判断が全員を救った」
「いえ、お二人の協力があってこそです」
諒は謙遜しながらも、手応えを感じていた。自分のスキルと知識が、確かに役に立つということを。
事態は収束したが、これは始まりに過ぎなかった。この事件をきっかけに、諒は研究所内で次第に頭角を現していく。そして、それは同時に新たな試練の始まりでもあった—。
カインは研究員たちの救助に向かい、リーシャは氷の壁を慎重に解除している。諒は床に膝をつき、ほっと息を吐いた。
「やれやれ、大変な研究所に来てしまったな…」
しかし、その表情には不思議と充実感が漂っていた。




