10.新たな夜明け
意識が戻った時、諒の目に最初に映ったのは、薄明かりの差し込む天井だった。
「気がついたの?」
リーシャの声が聞こえる。
ゆっくりと上体を起こすと、そこには心配そうな表情の仲間たちが集まっていた。
「どれくらい...」
「丸二日よ」
リーシャが答える。
「もう、心配したんだから」
その声は怒っているようで、しかし確かな安堵に満ちていた。
「実験は...」
「大成功だ」
マーカスが近づいてきた。
「世界の魔力循環が、驚くほど安定している」
エレナが古書を開きながら説明を加えた。
「古代の記録にある理想的な状態と、ほぼ同じ数値を示しています」
「街の様子は?」
諒が尋ねる。
「見てみるか?」
カインがカーテンを開けた。
窓の外には、清々しい朝の光が降り注いでいた。空には不気味な渦はなく、代わりに淡く美しい魔力の光が、まるでオーロラのように漂っている。
「研究所では、新しい発見が次々と報告されているわ」
リーシャが誇らしげに言う。
「古代と現代の魔法を融合させた新理論が、各研究室で展開されているの」
「私たちの図書館にも、多くの研究者が訪れるようになりました」
エレナが微笑む。
「古代の知恵を現代に活かそうという機運が高まっています」
「騎士団でも、新しい魔法剣の訓練方法を取り入れ始めた」
カインが付け加える。
「魔力を循環させる戦闘術でな」
諒は、自分の手のひらを見つめた。そこには魔力が優しく渦を巻いている。分析スキルを通して見える景色は、以前とは全く違っていた。
世界の魔力循環に触れたことで、このスキルもまた、大きく進化を遂げていたのだ。
「これからどうするつもりだ?」
マーカスが尋ねる。
「はい」
諒は窓の外を見つめながら答えた。
「この世界の、まだ見ぬ可能性を探っていきたいと思います」
「なら、これを」
マーカスが一枚の書類を差し出した。
「研究所の上層部からの辞令だ。新設される『循環魔法学科』の主任研究員として」
諒は驚いて書類を見つめた。
そこには、リーシャ、エレナとの共同研究体制や、カインの騎士団との連携も明記されている。
「いいのですか?私のような転生者に...」
「スキルの強さは、その使い方で決まるということを、お前が証明してくれただろう」
マーカスは満足げに微笑んだ。
「私たちも全面的に協力するわ」
リーシャが力強く言う。
「古代の知識と現代の技術、その架け橋として」
エレナも頷く。
「何か問題が起きたら、この剣で解決してやる」
カインが豪快に笑う。
諒は深く息を吐き、仲間たちを見渡した。
そして、確かな決意と共に答えた。
「ありがとうございます。では、新たな研究を始めましょう」
窓の外では、魔力のオーロラが一層輝きを増したように見えた。
世界は、科学と魔法が調和する新たな時代への一歩を、確かに踏み出していた。
そして、これは終わりではなく、新たな物語の始まりに過ぎなかった—。
(完)