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妙メモリー

借り物競争をしている女性の話

作者: みょめも

誰しも秘密の1つや2つはあるだろう。

僕も例外ではなく、秘密があった。


会社からの帰り道、ある女性に話しかけられた。


「もしよければ、貸してもらえませんか?」


その時に会った女性は少し急いだ風に話しかけてきた。

何事か聞くと「借り物競争をしている」とのことだった。

詳しく話を聞くと、中学生の運動会のときに借り物競争に出場したのだが、引いたお題の『墓場まで持っていく秘密』を誰も貸してくれず、いまだに探していて、かれこれ10年も競争したままなのだそうだ。

お題が「メガネ」や「帽子をかぶったひと」なら比較的簡単に借りられる。

いくら運動会という祭りのようなお酒も入る場所であったとしても、『墓場まで持っていく秘密』をそう簡単に貸せる度量の人は見つからなかったのだろう。


「高校生の運動会のときには『覚悟』っていうお題があったんですが」


「それも借りるのは大変だったでしょう」


「えぇ、でも聞いてみると意外にも『覚悟』を貸してくれる人がいたんですよ。そこで思ったんです。私も諦めずに『墓場まで持っていく秘密』を借りようって。その貸してくれた人の『覚悟』に触発されたみたいです。」


その話を聞いて僕は『親友の彼女を寝取った挙げ句、貢がせながら八股した』という、『3度は輪廻転生を繰り返した後の墓場まで持っていきたい程の秘密』を女性に貸すことにした。


「失礼ながら、それは超ド級のクズエピソードですね。さぞ墓場まで持っていきたいでしょう。」


「そうなんです。絶対に墓場まで持っていかなければならない秘密です。でも、どうしてもと言うのなら、気が変わらないうちにどうぞ。」


「ありがとうございます。やっと借りることができました。無事ゴールテープを切ったら返しに来ますね。」


女性は礼を言うと、急いでゴールがあるであろう方向に走り去ってしまった。

自分の過去を知らない見ず知らずの人に『墓場まで持っていく秘密』を貸してみると思いの外、肩の力が抜け清々しい気持ちになった。

こんな楽な気持ちになるのなら、この先関わることのないあの女性に貸したままにしておくのも悪くないなと思った。




ところが、しばらくしたある日、街中で唐突に「寝取られてさぁ」という声が耳に入ってきた。

ドキッとして振り向くと知らない人だったのだが、ふと『墓場まで持っていく秘密』を貸したときの事を思い出した。

そういえばあの女性は何者だったのだろう。

そもそも借り物競争にも関わらず、借りた『墓場まで持っていく秘密』を返しに来ていないではないか。

無事ゴールできていないということだろうか。

それに本当に僕の人生と交わることはないのだろうか。

口が滑って誰かに話し、それが廻り廻って偶然に親友達や元カノの耳に入ってしまう可能性はないだろうか。

僕はあの時の『墓場まで持っていく秘密』を、どうしようもなく返してほしくなった。

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