8.
僕らを見たその顔色は明らかに悪かった。
気丈に平素を貫いているようだったが、震えているのがわかる。
涙がいく筋も流れていて、化粧が落ちていた。
だがそれ隠すこともなく、毅然としている。
だが言葉を紡ごうとしていて幾度も苦しそうに口で息をしていた。
やっと口から出た言葉は必死で絞り出したものだった。
「・・・カインゼル、殿下。・・・エリアル。・・・クロード様。わたくしは、・・・あなたたちを・・・っつ、この場、で、祝えるほど、寛容では・・・ありません。・・・はぁっ・・・はっ、失礼します」
ケイカ・アシュレイ公爵令嬢は、真っ青な顔で艶やかに微笑んだ。涙が彼女の頬をつたい胸元を濡らしながら。
まるで妖精がダンスを終え最後の挨拶をするような優雅なカーテシーをした。
「ケイカ、待って!!」
「ケイカ、すまない」
エリアル嬢と殿下の声が重なる。
だが、彼女は静かに下を向き僕らに視線を合わせることはなかった。
「もう二度と・・・お会いすることは、ないでしょう。・・・さようなら」
その表情は蝋人形でもあるかのように生気がない。
ふわりと翻るドレス。
ゆっくりと歩き出すその姿はか弱く、今にも折れてしまいそうな印象があった。
「カインゼル殿下。エリアル。わたしはあなたたちを許さない。クロード、あなたもよ」
エミリア嬢が叫ぶと、急いでふらつくケイカ嬢を支えて、ゆっくりと会場の外へと出て行った。二人の姿が見えなくなるまで誰も動けなかった。
衣擦れも聞こえないほどの静寂を破る者が現れる。
「・・・殿下。貴方様の側近を辞することをお許しください」
フレイさんがカインゼル殿下の前に立つと、突然頭を下げたのだ。
「フレイ!!どうしてだ!」
「妹のそばでいさせてください。
・・・クロード。君に少しでも期待していた僕は馬鹿だった。
エリアル嬢も、君は妹の何を見ていたんだ」
彼は泣いていた。冷静な彼が涙を見せるとは思わなかった。
ー何故だ?
「国王陛下。私も娘の#願い__・__#を処理次第、宰相を降りさせてもらいます」
「どうしてだ?」
「貴方様が#ご子息__・__#であるカインゼル様の幸せを優先し、その婚約者であったエリアル嬢の幸せを願った。ならば私も娘の幸せを願っても許されるはずです。あの子を・・・幸せにしたいのです。どうかご理解して下さい」
「待て、待ってくれ、宰相。これは・・・」
「慰謝料を請求したいところですが、今は少しの時間も惜しい。もう、我々にかかわらずそっとしてください」
ケイカ嬢の父親も幽霊のように去っていった。
アシュレイ公爵一家の行動にザワザワと声が上がりだす。
残された僕らは、その後の記憶はあまりなかった・・・。