7.
青白い顔色。今にも倒れそうな儚く弱々しい女性だ。
流した長い銀の髪には金木犀の花を無数に散りばめれ、キラキラ輝いているように見える。まるで絵本や小説の挿絵に出て来る妖精のように見えた。
彼女の胸元にはオレンジ色の宝石のついた羽根のブローチ。それに見覚えがあった。
彼女の声にザワザワとしていた周囲の声がぴたりと止み静寂が広がる。
「ケイカ・・・」
エリアル嬢が名前を呼ぶ。
やはり、エリアル嬢の知り合いなのだ。あのブローチを贈った相手に間違いない。
だが、何より僕には、その名前に聞き覚えがあり、顔から血の気は引き、動くことさえできなくなってしまう。
『ケイカ』それは僕の婚約者の名前だった。
まさか、エリアル嬢の知り合いとは思わないだろう。まさか、こんな出会い方をするとは考えてはいなかった。
エリアルが僕に合わせたかった友人とは婚約者だったということか・・・。
フレイさんにこの後、婚約者に会うことになっていた。
この場所にいても不思議ではない。でも、こんな偶然があっていいものだろうか。
彼女はゆっくりと礼をすると、国王陛下に尋ねた。
「国王陛下。それでよろしいのですね」
紅を刷いているはずなのに、唇の色が悪い。そこから紡がれる声には、深い悲しみが宿っていた。
「っつ・・・、私が、言ったことだ。覆ることは、ない」
国王陛下の声は、震えていた。その目を大きく見開いている。そこには動揺や悲しみのような複雑な色があった。
「では、受け賜りました。わたくし、ケイカ・アシュレイはクロード・ベルツハイツ伯爵子息様との婚約を解消いたします。
・・・ですが国王陛下。
わたくしの我儘だと思って、カインゼル様のことはお許しいただけないでしょうか。カインゼル様は素晴らしい次代を造ると方とわたくしは信じております。
わたくしのこの命をかけても、誓ってもかまいませんわ」
国王陛下のますます瞳が揺らぐ。まっすぐ、婚約者を見ていた。
「しかし・・・」
一度口に出したことを覆すとはあり得ないことだ。
彼女は幼い子供を諭すような優しい声をだした。
「国王陛下。我儘な女のたった一つのお願いですわ。カインゼル殿下やエリアルの願いを叶えるというならば、わたくしの最期の願いも聞いていただけないでしょうか?
ねっ、国王のおじ様・・・」
「・・・ケイカ、・・・わかった。ケイカの願いを、叶えよう」
「うれしいですわ。ありがとう、ございます。おじ様。大好きですわ」
彼女は国王陛下に頭をさげたあと、ゆっくりと僕らを向いた。