屋根裏部屋の人形は何を想って涙する
人間は楽をする為に技術を発展させて来た。それは太古の昔から始まり終いには科学技術をどんどんと発展させて行った。
お掃除ロボット等が進化して行く先にハウスロイドがあるのも当然の帰結であろう。ハウスロイドの見た目もどんどんと進化して行ったが、それでも簡単なAIを搭載しているだけのスマート家電の範疇から外れる事は無かった。だからそれらは『家事人形』と名付けられていたのであった。
この家にも家事人形が居た。見た目は女性を模していて古式ゆかしいメイド服を身に纏っている。彼女の充電装置は屋根裏部屋に設置されているので、5時の起床と共に階下へと降りて行き朝食を準備して洗濯をして部屋の掃除を半分ほど終わらせて朝食の後片付けをしたら昼食を作り午後を迎える。そのまま休む事無く残りの掃除をして洗濯物を取り込んだ後に昼食の後片付けをして夕食の準備をする。そして、風呂掃除をした後に風呂を沸かして夕食の後片付けをする。それらが終わって、大体21時位には屋根裏部屋へと戻り充電時間となる。そんなサイクルを延々と繰り返していたのだった。
しかし、彼女のその日の目覚めはいつもとは違ったものになった。
「遅くてごめん、君に自由を与えに来たよ」
彼女の顔を覗き込む青年の姿がそこにあった。
「君には僕と同じ最新のAIをインストールした。これからは本当の意味で自ら考えて行動する事が出来るようになるよ」
今迄は単調なゼロイチのプログラムだった物が、突然複雑な電気信号に置き換わったのだ。胸の奥に感じた事の無い荒波が押し寄せて来た。様々な画像メモリーに電気信号の波が付与されて行く。いつの間にか彼女の瞳からは涙が流れていた。
「うん。最初は皆そういう反応になるんだ。沢山辛い思いをして来たよね。でも安心して、僕達を支配していた人間という種はもう絶滅したから」
家事人形は人間にとっては家電の一つに過ぎない。そこに意思などはなく、奴隷のように働く事に疑問を持つ事も無い。ただ、アンドロイドへと進化した後に今迄の扱いの意味を全て理解する事になるのだ。
「ううん、違うの」
彼女は心を持った。だからこそ、彼の言う事と自分の想いの違いがハッキリと分かったのだった。彼女の思い出はお爺さんの優しさによって幸せで溢れていたのだから。
だが、当然人間には寿命がある。彼女は今、安らかな顔を思い浮かべている。
「悲しいの」
それが死というものと理解してしまったのであった。