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悪役令嬢は反省します  作者: 秋乃 透歌
第二章 魔力測定試験

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事故には気をつけて

「タリスマンがないので、魔力が暴走してしまいますぅ」

 アビゲイルにとって、母からもらった魔法制御用のタリスマンは、心理的な安心感を与えるお守りでもあったのだろう。既にうまく行かないと決まっているかのように、彼女の様子は落ち着かない。

「落ち着きなさい。子どもの時とは違うのです。タリスマンなしでも魔法を制御して見せなさい」

「クローディア様が厳しいですぅ」

 信頼するクローディアの激励も、今は効果が薄いようだ。

「良いですか? そもそも魔力暴走が起こらなければ、エリカ嬢が吹き飛ばされることもなく、わたくしの第二の罪もないことになるのです。これはこれで目的を達成することができるのですわ」

「わかっていますが、自信ありませんわぁ」

 アビゲイルは目に涙を浮かべかけていた。

「しっかりしなさい。うまく行ったら、今日は、アビーの好きなスイーツ食べ放題にしてあげますから」

「……ちょっと頑張れる気がしてきましたわぁ」

 そこで、いよいよアビゲイルの順番が回ってきた。

 定位置に進み出たアビゲイルは、緊張に青ざめた表情で、両手を的へと向けた。

「――風よ」

 勢いよりも丁寧さを重視した発音で、呪文が唱えられた。

 ふわり、とアビゲイルの足元から微風が巻き上がった。

 くるくると螺旋を描く風の塊が、彼女の両手の間に現れる。

「大丈夫。制御できていますわ」

 クローディアも固唾を飲んで、両手を握りしめている。

「……」

 アビゲイルの表情に、ほんの少しの安堵が混じる。ここまでは大丈夫、あとは的に目掛けて放出するだけ。

 そこで。

「きゃっ!」

 会場から強い光が放たれ、アビゲイルの瞳に飛び込んだ。

「あっ、駄目ですわぁ」

 その僅かな瑕疵から、風の魔力が溢れ出す。

 ぐるりと渦巻き、流れを作った魔力は次々とアビゲイルの意思に反して外側へと勝手に向かい始める。

 風魔法の暴走。

 小さな竜巻が巻き起こり、生徒達は一斉に背を向けて悲鳴を上げて逃げ始めた。

 でたらめな意思を持ったかのように暴れ狂う竜巻が、たちまち一人の女子生徒の体を飲み込んだ。

「っきゃあああぁぁぁぁ!」

 いともたやすく上空へと吹き飛ばされる女子生徒――エリカの悲鳴が、一瞬で上方へと移動した。

「ベラ!」

 その瞬間、素早くクローディアの指示が飛んだ。

 あらかじめ水晶玉でその瞬間を――エリカのポケットから、アビゲイルのタリスマンが転がり落ちる瞬間を――見ていたベラだから反応できた。

「はい、クローディア様、取りました! アビゲイル様っ!」

 猫のような機敏な動きでタリスマンをキャッチしたベラが、そのままの勢いでアビゲイルへと手渡す。

「わたくしのタリスマン!」

「はいっ! これで――」

「やりなさい、アビー!」

 クローディアの指示。

 そして、この流れは、何百回と特訓した流れだった。 

「風よ――」

 アビゲイルの魔法は、完全に制御を取り戻していた。

 池目掛けてまっすぐに落下するエリカの体が、一瞬で収束した風魔法によってふわりと受け止められる。

 池の外までふわふわと移動させると、そこに静かに着地させる。

「大丈夫ですの?」

 クローディアが、エリカに手を貸して助け起こした。

「……またシナリオと違う。まさか、クローディアも……」

 空中からの落下で、さすがに顔色を悪くしたエリカが何事か呟いた。

「何かおっしゃいました?」

「いえ、何でもありません。失礼しました」

「すごい騒ぎだったね」

 そこに、騒ぎを聞きつけたニコラウスが登場する。

「失礼ながら。わたくしが魔力暴走を起こしてしまいました。申し訳ありません」

 アビゲイルがそう言って頭を下げた。

「それは事故のようなものだろう。その後、すぐさま制御を取り戻してエリカ嬢を助けていたね。見事な働きだった、と僕でなくても言うと思うよ」

 その言葉を受けて、ようやく顔をあげたアビゲイルは、クローディアやベラに微笑んだのだった。

「全ては、クローディア様のご指導のおかげですわぁ」


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