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悪役令嬢は反省します  作者: 秋乃 透歌
第一章 ある朝の一幕
5/14

解決編は慎ましやかに

 まずは、現場の確認。

 そう状況を仕切り直したクローディアだったが、簡単にぐるりと教室を一回りし、割れた花瓶こそ多少丁寧に眺めたものの、大した観察も発見もなく元の位置へと戻っていった。側で取り巻きをつとめるアビゲイルにせよベラにせよ、行動は大して変わらなかった。

 基本的に、お嬢様は無駄な行動はしないのだ。

 ふむ、とクローディアは息をついた。意味もなく窓の外を眺めると、花瓶が割れた音を聞きつけたのか、何人かの生徒がこちらを見上げて様子を伺っていた。

「アビー。ちょっと……」

 クローディアはアビゲイルを呼ぶと、扇を使って音を消しながら耳打ちした。

「さっぱり分かりませんわ。これが本当に無実の罪ですの?」

「ああ、やっぱりそうでしたかぁ。三人で話した時には、他に思い当たる事がない以上、この花瓶の件が無実の罪だという結論でしたわぁ」

 こそこそと意味のないやりとりをする。

「なかなか、簡単に名探偵の真似ごととはいきませんわね」

 それから、クローディアはベラへと向き直る。同じく扇を使って内緒話をする。

「ベラ。舞踏会の日、未来の出来事を見て知っていたというあなたなら、水晶玉でも覗いて、ここで過去に何が起きたかも見ることができるのではなくて?」

「……かしこまりました。ここでは人目がありますので、一度失礼いたします」

 ベラは、いかにも秘密の指示を受けたという様子で、いそいそと教室の外へと走り出ていった。

 この調子だと、本当にトイレで水晶玉でも覗くのかもしれない。

「エリカ嬢」

「はっ、はいっ!」

 クローディアがエリカへと声をかける。

「花瓶が割れた時のことを話して下さいませ」

 いかにも必要な状況確認といった様子ではあるが。

「私は、自分の席で読書をしていました。熱中していたので、教室の様子は分かりません。突然、花瓶が割れる音がしたので、驚いて振り返ったら花瓶が落ちて割れていました。あとは、皆さんが教室にいらっしゃったのでご存知だと思います」

「なるほど、ですわ」

 いかにもといった様子で頷いて見せるが。

 ――完全に、ベラが戻って来るまでの時間稼ぎであった。

 と、ちょうどそのタイミングでベラが戻ってきた。

「どうでした?」

 クローディアの言葉に。

「クローディア様のお考えの通りでした」

 ベラはそう応えた。

 お考えも何も、クローディアは答えをカンニングするようベラに指示していた訳だが。そこは、それらしくクローディアを立てるための演出という訳だった。

 そして、ベラは窓際へと歩いて行くと、カーテンの陰へと手を差し入れた。そこから取り出したのは、どこでも見る野球のボールだった。

 そういうことね! という一言はなんとか飲み込み、クローディアは、自分の考え通りとばかりに重々しく頷いた。

「ありがとう、ベラ。これで謎は解けましたわ。――アビー」

 指示を受けたアビゲイルは、心得ているとばかりに教室の窓から外へと声を張り上げた。

「そこのあなた達ぃ。キャッチボールは終わりですのぉ?」

「す、すみませんでした! 今そちらに行きます!」

 慌てて教室へと駆けつけた男子生徒二名は、ボールが教室に飛び込んだ後、花瓶の割れる音がしたと白状した。

「これにて本当に一件落着ですわね」

 クローディアが満足そうにそう言った。

 エリカが、慌てたように頭を下げた。

「ありがとうございます、クローディア様。あのままじゃ、無実の罪を押し付けられちゃうところでした」

 でも、と――。

 頭を下げたままで、エリカは呟いた。

「そんなことをしても、シナリオは変わらないけどね」

 その声は小声過ぎて、誰の耳へも届かずに消えてしまった。

「やあ、クロエ。ご活躍のようだね」

 そこで、王太子であるニコラウス=マノンが教室へと入ってきた。

「ニコラ――ニコラウス殿下。おはようございます」

 思わず愛称で呼びかけてしまったクローディアを始め、女生徒達は一様に礼をし、男子生徒達は直立の姿勢をとった。

「皆、楽にして良いよ。何か騒がしかったようだけど、クロエが解決してしまったんだね」

「はい。当然のことをしたまでですわ」

 その答えに、ニコラウスは微笑みを返してくれた。

「ニコラウス殿下。クローディア様に助けてもらっちゃいました」

「ああ、ここはキミの教室だったんだね。エリカ嬢」

 ニコラウスは、無礼ぎりぎりの気安さで距離をつめるエリカに苦笑し、困った笑顔をクローディアに向けた。

 クローディアとしても、似たような笑顔を返すことで返事に替えるのだった。

「エリカ嬢はまたあの調子……。困りものですわねぇ」

「はい。それでも、これで一つ目の罪は回避できたと言えそうです」

「そうですわね。アビー、ベラ、ありがとう」

 そう言って、三人は頷きあうのだった。


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