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悪役令嬢は反省します  作者: 秋乃 透歌
序章 舞踏会にて
2/14

決意

 待たせてあるデピス家の馬車へと向かう、クローディアの足取りは重かった。

「まだ泣いてはだめですわ。……せめて、屋敷に着くまでは」

 必死に自分に言い聞かせながら、交互に左右の足を出す。

「クローディア様!」

 そこで、呼び声とともに追い掛けて来たのは、アビゲイル――ベグネ中爵(ちゅうしゃく)令嬢――アビゲイル=ベグネだった。

 普段からクローディアの取り巻きとして一緒にいることが多いアビゲイルだが、先の舞踏会場では、側へ控える前に婚約破棄の騒動が起こってしまったという訳だった。

 アッシュブロンドの髪を上下させ、オレンジ色のドレスの裾を持ち上げて駆けてきたのだ。

「クローディア様ぁ」

「アビー」

 二人は名を呼び合うと、お互いの体を抱きしめた。

「なんっ、何なんですか、ニコラウス殿下はぁ。あんなの、あまりにも酷すぎますわぁ」

 アビゲイルは、ぼろぼろと大粒の涙を流していた。

「泣かないでアビー。わたくし、必死に泣くのを我慢していますのに」

 泣きたいのはこちらですわと思いながら、クローディアはアビゲイルの背中をなでる。

「絶対やけ食いしてやろうと思ったのに、全然喉を通らなくって、わたくし、あまりにもクローディア様がぁ」

「あなたが、食べ物が喉を通らないなんて……。ああ、ほらもう、泣き止みなさい」

「そうですよ。泣いていても、事態は好転しません」

 そこで、第三の声がかかった。

 現れたのは、ベラ――クベルドン下爵(かしゃく)令嬢――ベラ=クベルドンだった。

 この国では珍しい黒髪黒目で、小柄な体に紫色のドレスをまとっていた。

 ベラも、アビゲイルと共に、クローディアの取り巻きとして一緒に行動することが多かった。これでいつもの三人組が集まったという訳だ。

「ベラも。来て下さったのですね」

 クローディアが、アビゲイルを抱えたままベラにも抱きついた。

「クローディア様。心中お察しいたします」

 クローディアの腕の中で、ベラが言った。

「ええ。まだ心の整理ができていないのだけれど」

 気丈にもそう言って、クローディアは笑みまで見せた。

「――クローディア様。やり直したいですか?」

「何を言っていますの、ベラぁ。そんなの、やり直したいに決まっていますわぁ」

 ベラの言葉を受けて、アビゲイルが涙に濡れた顔を上げた。

「それは、やり直せるものならやり直したいですわ。でも、そんなことって――」

「できます。クローディア様、私は時魔法使いです」

 ベラのその言葉に、クローディアとアビゲイルは顔を見合わせた。

「ベラは、水魔法使いではありませんかぁ」

「それは、時魔法を隠すための嘘だったのです」

 強い調子でベラが断言する。

「私、今日の舞踏会で何が起こるか、前もって全て知っていました。クローディア様が婚約破棄されることも、エリカ嬢が新しい婚約者になることも」

「もしそれが本当なら、どうして教えてくれなかったの?」

 クローディアの疑問の言葉に、アビゲイルも頷く。

「ニコラウス殿下の決意を変える方法がなかったからです。知っていても回避できなかった。婚約破棄を回避するためには、実際にこれを体験してもらって、大きく時間を巻き戻して、やり直すしかないと思ったのです」

 ベラは続けた。

「失礼ながら、クローディア様は、学園では悪役令嬢などと呼ばれています」

「ちょっとベラぁ!」

 アビゲイルが声を上げるが、ベラは止めなかった。

「私達はそんな声を全く気にしなかったし、楽しく毎日が過ごせればそれで良いと思っていました。でも、この婚約破棄を回避するためには、それではだめなのです」

「ニコラにとって――この国の未来の女王として、相応しくない、ですわね」

 クローディアは、先刻投げつけられた言葉を呟いた。

「そうです。行いを悔いて、心を入れ替えて行動するしかない。特に、エリカ嬢への対応は変える必要があります」

「あなたの時魔法で、それを助けてくれるの?」

「はい。私達三人の意識を一年過去へ戻すことができます。この魔方陣で――」

 ベラは、取り出した紙を広げて見せる。

 そこには魔法陣が――円や三角や四角、様々な直線や呪文が複雑に書き込まれていた。

「この三角形の頂点を両手で持ってください。そうです」

 クローディアとアビゲイルは、指示された位置で紙を持つ。ベラ自身も、同じように魔法陣を持った。

 突然告げられた婚約破棄。

 その受け入れがたい現実を改変するため、時魔法で過去へと戻る。

 悪役令嬢とされる行いを反省する。

 そのために――。

 やがて、クローディアは決然と顔を上げた。

「わたくしは、心を入れ替えて、婚約破棄を回避して見せますわ」

 その宣言に、ベラもアビゲイルも笑顔を返した。

「はい」

「その意気ですわぁ」

 そして、ベラは一つ咳払いをした。

「では行きます。――時よ。悠久に流れる大河よ――」

 ベラの呪文詠唱が始まり、魔法陣が光を放ち始める。

 そして――。


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