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悪役令嬢は反省します  作者: 秋乃 透歌
終章 二回目の舞踏会

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12/14

告白

「これで、三つの罪は回避できましたわね」

 クローディア=デピスは、静かにそう言った。

「その他の行いも正しましたし、悪役令嬢も返上ですわぁ」

「ニコラウス殿下に嫌われる心配はないでしょう」

 アビゲイル=ベグネ、ベラ=クベルドンも同意の言葉を続けた。

 そして、いよいよ――。

 再び、卒業記念の舞踏会当日――。


 しかし。

 つないだ腕は、乱暴に振り払われてしまった。

 クローディアは、驚きと、冷たく湧き上がる嫌な予感に、その足を止めた。

 その反動で、彼女のブロンドの髪と、身にまとった薄青のドレスが不安げに揺れた。表情を隠そうと広げた扇の奥で、碧い瞳が、離れゆく背中を追いかける。

「そんなはず、ありませんわ……」

 その呟きは、本当はこれから起こることを予見しているかのように、弱々しく震えていた。

 舞踏会の会場へと到着した早々、ニコラウス=マノンの腕は、乱暴にクローディアの腕を振り払ったのだった。

 なんの説明もなく。

 ニコラウスの背は、婚約者を置いたまま、歩みを進めてしまう。

 思えば、クローディアを迎えに来た馬車の中でも、ニコラウスはどこか上の空でおかしな様子ではあったのだが。

「ニコラ――ニコラウス殿下」

 耐えきれず、去ってしまう背中へと声をかけようとして、クローディアはその言葉を飲み込んでしまう。

 彼女の視界に、鮮烈な赤いドレスが入ったからだ。

「ご機嫌よう、ニコラウス殿下。それに、クローディア様」

 ドレスの主は、満面の笑顔で挨拶を口にした。

 ピンクブロンドの髪に緑がかった色彩の瞳、真紅のドレスをまとった彼女は、エリカ=フランジパンだった。

「やあ、エリカ。今日のドレスも、そして君自身も素敵だね」

 陶然とした声色で投げかけられるニコラウスの言葉が、クローディアの背筋を冷たくする。

「皆、少し聞いて欲しいことがある」

 凛としたニコラウスの声が会場に響いた。

 音楽は止まり、歓談は少しのざわめきを残して消えた。

 ニコラウスの視線は、まっすぐにクローディアを射抜いていた。

 そう、今、ニコラウスは、傍らにエリカを従え、クローディアへと向かい立っていた。

「私から、大事な話がある」

 ニコラウスはそう声を響かせた。

「私、ニコラウス=マノンは、クローディア=デピスとの婚約を破棄する」

 そして、そう宣言した。

 その瞬間、エリカは笑みを深めた。

 クローディアは絶句する他なかった。

「どうした? そうやって、無言で見つめ返せば事態が好転すると思っているのか?」

 冷ややかなニコラウスの声に、しかしクローディアはすぐには言葉など返せないのだった。

 婚約、破棄。

 またしても。

「なぜですか? どうして婚約破棄など――」

「ここにいるエリカ嬢との関係における、一つの真実が理由だ」

 重々しく、ニコラウスは言った。

「一つの真実?」

 そのままを聞き返したクローディアに、ニコラウスは頷いた。

「エリカ=フランジパンを愛しているということだ」

 ふらり、と。

 クローディアは足元が揺らいだ気がして立ち直した。

「三つの罪を回避するために、わたくしは――わたくし達は、必死に一年間をやり直したと言うのに……。エリカ嬢を愛しているという、一つの真実だなんて」

 つぶやくクローディア。

 そう、呆然と婚約破棄を受け入れた前回とは違う。

 この一年をやり直して、必死に身の振り方を見直して。

 悪役令嬢だった行いを反省したのだ。

 それに。

 そう、わたくしは、一人ではありませんわ。

「そうですわぁ、クローディア様。今度こそ、勝手なもの言いを許してはなりませんわぁ。今のあなたは、一人ではありませんもの」

 クローディアの左隣へと、アビゲイルが歩み出て言った。

「その通りです、クローディア様。ニコラウス殿下の様子がおかしいのは、光魔法による魅了の影響です。私の時魔法でなんとでもできます」

 そして右側へは、ベラが歩み出て言った。

 そう。

 今回は、クローディアは一人ではないのだ。

「そうですわね。アビーにも、ベラにも、何度も助けていただきました。今度は、わたくしが覚悟を決める番ですわ」

 クローディアは、決然と顔を上げると、一歩踏み出した。

「殿下、その婚約破棄、簡単にお受けする訳にはいきませんわ。お断りいたします。――ニコラ、お慕い申し上げておりますわ」


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