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悪役令嬢は反省します  作者: 秋乃 透歌
第三章 魔法戦闘大会

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延長戦は謎めいて

 魔法戦闘大会、決勝戦終了後。

「大丈夫ですか? クローディア様」

「痛んだりしません? 傷が残ったりしていませんこと?」

 左右からベラとアビゲイルに支えられ、クローディアは舞台裏へと退場するところだった。

「問題ありませんわ。ちょっと魔力の連続使用でふらつくだけですわ」

 そう応えて、クローディアは自分の足で歩いて見せる。

「それは良かった。先輩に怪我させたりしたら、後でどんな報復を受けるか分かりませんもの」

 そんな言葉とともに、エリカが現れた。

 勝者の喝采を十分に浴びて、こちらも舞台裏へと下がったところだろう。

「優勝おめでとうございます、エリカ嬢。一年生で優勝なんて、めったにない名誉なことですわね」

「ありがとうございます、クローディア様。そんなことより――」

 クローディアの言葉に適当に応じて、エリカは口調を変えた。

「『地球』、『日本』、『乙女ゲーム』、『ときめきノクターン』」

「な、なんですの?」

 突然、意味不明の単語を並べ始めたエリカに、異様なものを感じたのか、クローディアが思わず聞き返した。

「その反応。あなたは『転生者』じゃないの? 現代日本で死んだ時、女神様に会って、チートな能力をもらったんじゃないの? ゲームの世界の中に生まれ変わったんじゃないの?」

「てんせい? 何を言っているのです?」

 クローディアの疑問に、エリカは応えない。

「ふうん。シナリオと違う動きをするから、あなたも転生者なのかと思っていのに。違うんだ」

「何を意味の分からないことを言っているんですか」

「さっきから口調も平易で、失礼ですわよぉ」

 ベラとアビゲイルが口をはさむが、それをクローディアが両手で制した。

「今はそれは良いのですわ。エリカ嬢、お話を続けて下さらない?」

 エリカはゆったりと頷いてみせた。

「私は、こことは別の世界から、乙女ゲーム『ときめきノクターン』の世界にやってきたのよ」

 クローディアは、訝しげな表情を変えないまま、それでも小さく頷いた。

「知ってた? ここはゲームの中の世界なのよ。西洋風に見せかけて、食べ物やスイーツも現代日本を踏襲してるし、カレンダーも日本風、野球のボールでキャッチボールしてるし、学園の様子も日本そのままのゆるふわ手抜き設定なんだから」

 エリカは続ける。

「みんな日本語を喋っているのよ。名前だけはカタカナなのに。そう言えば、爵位の名称もなんだか変よね。上爵(じょうしゃく)中爵(ちゅうしゃく)下爵(かしゃく)だなんて。普通は、公爵とか伯爵とか言うものなのに」

 何がおかしいのか、ふふふ、とエリカは笑みを見せた。

「つまり、エリカ嬢。あなたは、この世界が、何か作り物の世界だと言いたい訳ですの?」

「そう言うこと。私にとっては、先の分かった、小さな世界よ」

 クローディアの言葉に、エリカは応えた。

「だとすれば、はいそうですかと認める訳にはいきませんわね」

 厳しい口調へと変わったクローディアの声に、エリカはぐっと押し黙った。

「エリカ嬢。ここは、わたくし達が、実際に暮らす世界ですわ。必死に暮らし、明日を願い生きて、時に訪れる悲しみに負けないよう祈る、そんな世界ですわ。ここを価値のない小さな箱庭のように言うことは、許せませんことよ」

 クローディアの言葉に、呆気にとられていたエリカは、しかし負けずにニヤリと笑った。

「ねえ、クローディア様。あなたはまるで心を入れ替えたみたい。でも、悪役令嬢にはそれなりの役割があるの。わかるかしら? 例えば、私に負けた腹いせに、対戦相手を階段から突き落としたり、ね!」

 そこまで喋ると、エリカは自ら後ろ向きに跳んだ。

 頭を下にして、階段へと落ちていく。

 しかし――。

「アビー!」

「かしこまりました、クローディア様。――風よ!」

 瞬時に編み上げられた風の魔法が、エリカの体を包み込み、ゆっくりと階段の下まで運び終える。

「よくやったわ、アビー。そうそう思い通りに行かなくてよ。おーほっほっほ」

「その高笑い。悪役令嬢が出てしまってますよ」

 ベラが横から言うが、その表情は安堵の色が強い。

「大丈夫かい、エリカ嬢」

 そこで、床に座り込んだままだったエリカに、現れたニコラウス=マノンが声をかけた。

「ニコラウス殿下。そのっ、私、今、クローディア様に突き飛ばされて階段を――」

「私にはそうは見えなかったな。自分から飛び降りたところを、アビゲイル嬢に助けてもらったんじゃないかな」

 ニコラウスは、慌てて階段を駆け下りてきた三人に頷いて見せた。

「今回も、見事な風魔法だったね。まるで何百回も特訓したような滑らかさだった」

「いえ。クローディア様のご指導のおかげですわぁ」

 にっこりとアビゲイルが応えた。

「クロエ。良い友人を持っているね」

 珍しく愛称で婚約者を呼ぶと、ニコラウスは笑顔を見せた。

「ええ。その通りなのですわ、ニコラ」

 照れて顔を赤くしながら、クローディアは三人で顔を見合わせて笑い合うのだった。


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