最強は誰?
マノン王立学園高等部で開催された魔法戦闘大会。
その女子生徒の部は、予想外の展開に盛り上がりを見せていた。
決勝戦進出を決めたのは、大方の予想を裏切らない形でクローディアだった。しかし、もう一人が、一年生の下爵令嬢――エリカ=フランジパンだったのだ。
「一年生にしては見事な戦いぶりですわ」
魔法戦闘大会の舞台となる闘技場に立ち、クローディアが言った。
観客である一般生徒達に戦闘魔法の影響が及ばないように、闘技場には結界の魔法が張られている。そのため、この舞台の会話は外には聞こえないものになっていた。
「当然です。私がどれだけこのミニゲームをやり込んだと思ってるんです?」
応じたエリカの台詞は、一部理解のできない言葉を含んでいた。
「ミニ、ゲーム? 模擬戦でも特訓したんですの?」
「ふぅん。そういう反応なんだ……」
怪訝そうなクローディアに対して、エリカは何か含みがありそうである。
「まあ、良いですわ。この試合、あなたに勝利して、ニコラに良いところを見せるつもりですから、降参するなら早めにどうぞ」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよ。クローディア様」
二人の言葉と視線がぶつかり合う。
『それでは、決勝戦を開始します。用意――』
アナウンスの声が、二人を構えさせた。
『試合開始!』
合図とともに動いたのは、クローディアだった。体を低く沈めるように、走り出した。
「――光よ」
そして最初の攻撃はエリカだった。身動きもせずに唱えられた呪文は、光の矢となってクローディアを襲う。しかし、その位置には既にクローディアはいない。先手を打った移動が功を奏したのだ。
「速い、ですわね。でも当たらなければ、どうと言うことはありませんわ」
クローディアはジグザグと軌道を変えながら走り続ける。少しずつ、エリカの位置へと近づいて行く。
「――光よ」
対するエリカは、その位置から動かずに、クローディアを狙い続ける。
遠距離から狙撃する形の彼女の視線は鋭いが、どこか当たらなくても当然と言った雰囲気もある。
そして。
一種の拮抗状態だった序盤が切り替わる。
「――氷よ」
一転して足を止めたクローディアが、小さな氷の破片を空中へとばらまいた。
「――光よ」
エリカの光線がクローディアの体の中心を撃ち抜く――が、氷の破片がキラキラと攻撃を拡散させてしまい、有効打にならない。
「パターン2ね」
呟いたエリカが、今度は真横へと移動を始めた。
「この距離なら、氷の速度でも十分対応できますわ」
クローディアが、溢れ出る魔力で、体の周りに次々と氷の鏃を作り出す。拳一つほどの大きさに成長する端から、エリカ目掛けて連続して放出される。
エリカは闘技場全体を使って全力疾走しながら、クローディアの氷を後ろへと置き去っていく。反撃する暇などない。
「それでも、およそ5秒で攻撃は終わり、次は――」
エリカは走りながら自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「隙だらけのパターン3」
「ちょこまかと鬱陶しいですわ。次の一撃で、決めて見せますわ!」
クローディアが、言葉とともに、無数の鏃を生成し始めた。
躱す余裕などない、全方位攻撃の準備である。
「ここよ! ――光よ」
エリカは真っ直ぐにクローディアを指差すと、極太の光線を打つ。
クローディアが空気中にばらまいておいた細かい破片が、一度はそれを防御しきる。――が、次はない。
「これで決めますわ。――氷よ!」
「私の方が速いっ。――光よ!」
同時に呪文が唱えられ、その結果――。
クローディアの氷は、解き放たれることはなかった。
一方、エリカの光線は一直線にクローディアを捉えており――。
結果、倒れたのはクローディアだった。
エリカの優勝である。




