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Alice,  作者: 清瀬 柚李
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「ジュノ」

微妙に処刑あります。

無理な方はご遠慮下さい。


苦情なんかは来ないレベルだと思いますが。

不思議の国のアリスになぞるとチェシャ猫に当る僕の幼なじみ。


「なぁにシケた面してんの。執事サマ?」

「…あぁ、ジュノか」

天然の赤毛を頭で一纏めにしたパンツスーツの(呼びたくないが)女性。


彼女がジュノ。

軽薄で頭の軽い馬鹿なクセに頭はキレる。

特に、悪巧みに関しては一級品だ。


ついでに言うと男を惑わす「妖花」と通り名が付くほどの美人らしい。


城に迎えられた辺りから一緒に居たから、コック曰く「アンタの美人の基準は高すぎる」らしい。


「仕事帰りか」

「アンタはフラられた帰りか」

「…はぁ?」

「エースサマ。アリスがべったりじゃないの」


からから笑う。

全く、顔は良いのだから淑やかにしていれば好きなだけ男が寄ってくるだろうに。


「オシトヤカに、ねぇ」


くすくす笑う。

笑いの幅が広い奴だ。


「あたしがオシトヤカにしたら、アンタはあたしを選んでくれる?」


顔を近付けてくる。

にやり、ともにこり、とも言えない色気のある挑戦的な微笑み。


こいつは他国を制圧する為にエース様が使う情報を掴んでくる、所謂国家スパイ。


育ちの悪さを全面に表した

「素」を隠す為に使うこいつの演技は完璧だ。


その反動か、普段は素を全面に惜し気もなくさらけ出している。


「…俺にはエース様だけだ」

「そのエース様に相手にされて無いのは何処のどなた?」


睨み付けても金の瞳の揺らがない事揺らがない事。


これだから幼なじみは扱いづらい。


「…あたしにしときなよ」


軽く目を細めたジュノの唇が深く弧を描く。

僕も笑い返し、身を屈める。


吐息が重なる程近くに、ジュノがいる。


長い髪がするりと指を通り抜ける。


「お前が捕まったら、迎えにいってやるよ」

「冗談」


ふふふ、と今度は少女のように無邪気に笑って小首を傾げる。


「馬鹿じゃないの?」

「笑顔で毒を吐くな、猫被り」

「あたし猫だもの」


すっと身を退いて踵を返す。


ごきげんよー、と右手をひらりと振ってヒールの音高く去っていく姿だけは

それなりにイイ女なのだと認めよう。


前髪を掻き上げて何か言った気もするが、小さすぎて聞き取れなかった。


弱味でも掴んでおかないとアイツは使いこなせない。


「全く……」


少し品が無いが、気分的に前髪を掻き上げてみる。


「ぁ、あのぅ……」

「はい。……えーと?」


蚊の泣くような声に振り返ると、一人のメイドが顔を真っ赤にして俯きがちに立っている。色気に当てられたか。


たしか、ま――、


「メイド研修生の、ま、マリーと申します」


そうそう。マリー。

小柄で黒髪を三編みにした大人しい研修生。


たしかジュノが可愛い可愛い、と大層気に入っていた。


恥ずかしがりやで純情でドジっ娘で伊達眼鏡かけると可愛いすぎるのよ!


と騒いでいたからよく覚えている。


「何か?」

「はい、えと…女王様が、帰りがおせ、いえ、遅い、とおっしゃったので、探しておりま、した」


…彼女は田舎暮らしらしい。


懸命に話す姿は可愛らしいが、緊急の時は怒鳴ってしまうかもしれない。


…教師でも呼んでみるか?


「そうですか。どうもありがとう」

「いえ。…そのお荷物、私がかたずけておきます。

女王様の所へどうぞ」

「場所、分かりますか?それに結構重いですよ?」

「はいっ。道覚えるのは、特技ですから。それに、重い物は慣れてます」


にっこり笑われると、此方が癒されそうだ。


なるほど、ジュノはこう言うのが趣味か。

「じゃあ、頼みます」


はいっ!

ぺこりと頭を下げて足早に駆けていく。


あーあーあー…

転びそうだなぁ…

…危な。


でも愛されそうな娘だ。


ジュノとはまるで正反対だな。



ジュノは孤児だ。

僕は孤児では無いが、親から逃げてきた。


昔、超有名盗賊団があった。

その盗賊と言うのも、男子禁制の女の園こと

「盗賊団・Cats chip」

盗賊と言うより怪盗だ。


優れたコンビネーションで次々に財宝やら遺産やらを盗んでは庶民に配ったり、ドブに捨たり、そのまま持ち帰ったりと

まるで猫の様だと新聞で取り上げられてからと言うもの、猫を描いたコインが標的に届くようになった。


僕が6歳の時に壊滅した、言わば伝説の盗賊団だった。


そのCats chipとジュノに何の関係があるのかと言うと、

ジュノはCats chipの生き残りだからだ。



ジュノは孤児だ。

ジュノを拾ったのが団長の「ボス」。

悪い孤児の寄せ集めで造られた悪い盗賊団に悪いジュノは直ぐに馴染んだらしい。


思考回路こそいつでも悪巧みを考えてる集団だが、根は誰よりも真っ直ぐな集団だったと言う。


女であることに誇りを持ち、背筋をしゃんと伸ばして、誇り高く生きる彼女達は今でもジュノの誇りだと言う。

そんじょそこらの安いオトコじゃぁ釣り合わ無いイイ女ばっかししたよ、と語るジュノを放っておくと、軽く3時間は語り続ける。

それくらい、大切な場所だったのだと思う。


ジュノのコードネームは「チェシャ」。

何処か遠い国の言葉で、「希望」と言う意味らしい。


僕は知らないが。


『身が軽くて、美人で無邪気な笑顔を振り撒いてたあたしはCats chipの希望って言われてた。

みんなが小さいあたしを元気付ける為に言ってくれたのか、本当だったのか分からない。でも、あたしは嬉しかった。

仲間がいて、ろくに何もできないあたしを、ちゃんと認めてくれたんだって思った』

でジュノの仲間自慢はいつも始まる。


ボスは器の大きい妙齢の女性で

ババコは長老で物知りな中年過ぎのおばさん。

いつも叱ってくれるのは凛としたルイ姉さん。

優しく慰めてくれるミーヤ姉さん。

男前なモノ姉さんに、力持ちなビスカ姉さん。

背の高いビワ姉さんにドジっ娘のマール。

スイル姉さん、クルコ姉さん。


指折り数えながら一人ひとり説明していく姿は初めて出会った時には見れなかった、少女らしさが滲み出ている。


彼女達の最後は僕も知っている。


処刑された。


それだけ。


某国の国宝に手を出し、捕まった。

何人かは逃がされたが、ボスは捕まった。

いや。

自らその場で囮になろうとした。


ジュノは誰かに引っ張られ、逃げ延びた。

大好きな仲間を置いて。


公開処刑の形で行われたボスの最後は、古風なギロチンだった。


仰向けで、青空を仰いで。


最後の最後まで、アジトの場所も仲間の数も、自らの本名まで何一つ語ることなく、逝った。


最後に呟いた「空が青いねぇ。…こりゃいい夢が見られそうだ」と言う言葉は暫く世界中で流行り、遺言に引用する人々が続出した。


逃げ延びた者達も捕まり、全員処刑された。


と言うのも、「刑務所で生き恥かき続けるなら死んだ方がずっといい」と揃って言ったからだ。


大盗賊団Cats chipの最後と、団結の強さは世界中の涙を誘った。

後にこの話は書籍化され、全世界で大きな反響を呼んだ。


(この本を3行黙読して投げ捨てたのは他でもないジュノだ)



僕が6歳の時、世界を恨むようなキツイ視線で睨んで来た。

初対面で睨まれてドン引きした僕はジュノと距離を保ちつつ、友達になろうと言う不可能を実現させようとした。


半年経っても自己紹介も出来ずじまい。


あぁ、もう駄目だ。

と直感した。

駄目だ。この娘の心は開くことを知らない。


そう悟り、諦めようとした僕にジュノはこう言った。


「アンタ執事?

あたしここ分かんないんだけど」


ノートを片手にぶっきらぼうに話し掛けてきた。

指差した先は数式。

解けないことは無いが、正確さに欠ける気がして、家庭教師に聞くように促した所。


「アンタ解けないの?…ハッ。女王サマも大変ね。将来こんな無能執事サマがつくなんて」


カチンときた。


「なんだって?」

「あら聞こえませんでした?

む の う し つ じ サマ」


それから先は頭に血が昇っていて覚えてない。


たしか、ジュノの下で半べそでいたのを家庭教師に救出された覚えがある。

負けたのではない。

女性に手を上げられなかっただけだ。


それがきっかけでジュノは僕をからかうようになり、僕等は幼なじみとして今に至る訳だ。


僕とジュノの中が無駄に深いのは、何か同じ物を感じていたのかもしれない。


執事とスパイ。


道は違えど、僕等はずっとあの時のままでいられると、信じてた。




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