「エース」
「女王様、お茶会しようよ」
「うるさい。私は忙しいんだ。カノン」
「はい」
「摘まみ出しておけ」 「はい」
「え?ちょ、えぇー…」
アリスが城に住み着いて早くもひと月。
アリスを引き摺って中庭まで追い出すのが僕の日課になりつつある。
アリス、とは自称旅人のアリーリスの愛称。
別にそこまで仲良くしている覚えはないが、「いちいちアリーリス、って呼ばれるのも面倒だから」とアリーリスが提案した結果だ。
本人としては、彼曰く「男らしい」響きの「アース」と呼んで欲しかったらしいが、「アリス」で定着した。
「ねぇ、うさぎ君」
「…それ止めてください。一応僕の方が年上なんですよ」
「それホント?」
「…さぁ」
「ならいいじゃない」
からからと笑う自称旅人を軽く睨み付けて、ため息を吐いた。
「ため息?幸せ逃げちゃうよー」
「誰のせいだと思ってるんです?」
「ん?僕?」
「よくお分かりで」
確信犯か。全く性質が悪い。
「………。うさぎ君」
「だから止めなさい」
「今、幸せ?」
何を聞くんだろう。この旅人は。
「幸せ、って……」 「幸せか、って聞いてるんだ」
低い声だ。
いつもの軽い響きがない。
深く、甘さがない。
それなのに、何処か慈悲深い響き。
まるで、女神に愛でられた紅薔薇のよう。
――なんて事を考えたのはきっと、昔に読んだ古い神話のせい。
「幸せです」
アリスが目を見張る。
意外だったらしい。
「僕はエース様に仕え、日々エース様のお側でサポートが出来る。
これはとても幸せです」
アリスが目を細め、にやりと笑った。
「うさぎ君、いや。カノン」
珍しくちゃんと呼ばれた名前に驚いて、足を止めてアリスを凝視していたら、笑顔は苦笑に変わっていた。
「エース殿が好きでしょ」
「な……っ」
何を言うんだこいつは。
冷静な頭とは反対に、表情はかなりの反応を示したらしい。
「なに?もしかして図星ぃ?」
楽しそうにニヤニヤ笑うアリスを中庭に放り込んで、早足に執務室に戻った。
中庭からチズとロメの声がしたが、無視して流した。