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Alice,  作者: 清瀬 柚李
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第一章 女王様は憂鬱

女王様→じょうおうさま


女王→クイーン



と読んで下さい(__)

麗しき女王様。

敬愛なる女王様。


貴女こそが全て

どうぞご命令を。




お昼下がりのアフタヌーンティー。


この薔薇畑で過ごすのが彼女のこだわり。


彼女は我が国の女王様でなかなかの暴君だ。

「カノン」

「はい」


落ち着いて凜とした声。


「お茶がぬるいです。取り替えて頂戴」

「は…。失礼致しました」


温かなお茶を新しいカップに注いで差し出すと


「ありがとう」


と静かに紡がれる言葉。

恭しく頭を下げて一歩退がる。


書類に目を通しながら角砂糖を二つ。

ティースプーンが縁に当たって高い音を響かせた。


一口飲んで口を開く。


「カノン、今日の予定は?」

「はい。午後3時よりウィルス興の訪問が御座います」

「…ウィルス?」

「はい」


小さく舌打ちしたのを無視する。



ふと昔の記憶と被った。



僕が城にやって来たのは10歳の時。


15歳まで徹底的に執事としての技術・心得を叩き込まれた。


それはもうキツくて辛くて何度も逃げ出したりした。


大人になるにつれそれも無くなったけど。

昔、まだまだガキで世間知らずだった僕はエース様に聞いたことがある。


「つらくないですか」と。


エース様は珍しくきょとんとして、それから僅か笑って小さく舌打ちをした。


答えは悲しげな笑顔だった。



エース様の舌打ちは、自分が都合の悪い時の癖だと気付いたのはエース様の執事になってからだが。


僕より一つ年上の女王様。


彼女は悲しく無かったのだろうか。


彼女は寂しく無かったのだろうか。


一人の姫君として生きたく無かったのだろうか。


そう思うたびにあの舌打ちがちらついた。

「カノン」

「…。…っはい」


いけない。

ついほんやりしてた。

「戻ります。付いてらっしゃい」

「かしこまりました」

エース様の椅子を引いて使用人を呼ぶ。

片付けを命じて日傘を掲げる。


「…この後は?」

「3時より南の隣国ウィルス興の訪問がございます」

「そう」


相変わらず優美な後ろ姿を眺めていた。



3時になってもウィルス興が現れない


エース様は遅れが嫌いだ。

何事においても遅れる事は許さない。

もちろん、遅刻なんて論外。

―ちなみに僕は常に1時間前行動だ。―

故にエース様は酷くご立腹だった。


「くそっ。ウィルスはどうしたっ」

苛立たしげに舌打ちするエース様をはしたないです、と宥めて

時計を見やる。


予定を大幅にオーバー。


こりゃ完全に見捨てられたか。


こっそりとため息をこぼすてしいると


不意に皇接間の扉が開いた。


「お待たせしてすまない」


エース様の瞳が怒りに燃えた。


「ウィルスゥゥウ!貴ッ様ァァァァア!!」  「エース様、落ち着いて」

ガタン、と音を立てて立ち上がるエース様を必死に宥めて椅子に座らせる。


「お話だけでもお聞きになっては…」

「誰が聞くかっ!

私がどれだけ待ったと思っているっ!貴国との交流は今後一切禁じさせて貰う」

「エース様…」


…なんだか今日は厄日だ。



不機嫌ながらも席に着いたエース様の隣でようやく一息吐いていると、ウィルス興が話始めた。


「本日は遅れて誠にすまない」

「やけに遅かったな」

無愛想に返すエース様に苦笑して来客用のソファを勧める。


ウィルス興はもとから小柄だったけど今日はやたらに小さく見える。


「さてエース殿」

ウィルス興が深く被った帽子を脱いだ。


金髪の下の円らな瞳。

彼はそんな物持っていない。

ウィルス興は金髪の下の切れ長の瞳を素早く瞬くのが特技なのだから。


「初めまして、エース殿」


にっこりと笑いかけてくるのはどう見ても少年。


「貴様、名を名乗りなさい」

「名を尋ねるならまず自分が名乗るべきでしょう?」


円らな碧眼が笑っている。

癪だか相手が正論だ。


「私はカノン。此方のエース女王様にお仕えする執事です」

「執事さん?へーっ。なんか白兎みたい」

「白兎?」


エース様が口を挟んだ。


「そう。不思議の国のアリスに出てくる白兎さん」


くすくすと笑う。


「で、貴女が女王で、外に五月兎と眠りねずみもいたね」


唄うように。


「で、僕がアリスだ」


いきなり立ち上がり、胸に手を当て深く頭を下げた。


「我が名はアリーリス。東の果てより参りし旅人。

今日(こんにち)はかのウィルス興のご不幸により参り使った」


しん、と空気が張りつめる。

エース様が口を開いた。


「…不幸、とは?」 「落馬されました」

あー…と呟いた僕に笑いかけ、アリーリスは包みを出した。


「こちらはウィルス様手作りのアップルパイと苺のショートです。

…召し上がりますか?」

「頂こう」


速答したエース様をくすりと笑い、ケーキを差し出す。


「お願いしても?」 「…喜んで」


にっこりと笑えば白兎はそんなに怖くないよーと失礼な事を言う。

…つくづく面倒な旅人が来たものだ。


こっそりとため息を吐いた。




――これが僕らとアリスの出逢いで、

これが僕らの終焉の始まりだった。


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