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Alice,  作者: 清瀬 柚李
16/18

笑う猫は桃色

遅ればせながら

東日本大震災・犠牲者の皆様のご冥福、被災者の皆様の1日も早い平穏、東日本の1日も早い復興を心よりお祈りします。


私も出来る限りのことをしていきたいと思います。


久しぶりの更新になりましたが「Alice,」第二章4話です。

目を通して頂けた嬉しいです。らお楽しみ頂けたら泣いて喜びます。



トラリア皇国――。


北の大国ブリッジスから近年独立したばかりの軍事国家。

大昔、領土拡大を図ったブルジ族に土地を追われた先住民族トラリアが宣戦布告し、自由を掲げて戦い、そして勝ち取った国。


まだ歴史は浅いが、皇帝を中心に順調な発展を続けている。



トラリア皇国と王国、同盟を組むだけの価値があるのかどうかを調査する、という名目で皇国までやって来たあたしは、無機質な印象を受ける灰色の壁の前でカノンの言葉を思い出していた。


『お呼びですかー、執事サマ』

『茶化すなジュノ。…トラリア皇国、って知ってるか?』

『トラリア…あぁ、北の』

『まだ小さいが将来力を持ちそうな気がするんだ』

『アンタが勘でモノを言うなんて珍しい』

『あぁ。正直、これは賭けだ。

独立したてで外交に疎いトラリアと手を組めば、王国は北に同盟国(兵隊)を持てるし、トラリアは後ろ楯を手に入れることになる。

…ジュノ』

『何?』

『見極めて来てほしい』

『…トラリアを?』

『あぁ。お前の目で、トラリアを』


カノンの射抜く様な目。

いつからアイツはあんな目をするようになったんだろう。


トラリア皇国へ、王国から独立の祝い。

表向きそうなってるけどあたしの任務はトラリアの視察。

やってやろうじゃない。

国の未来はあたしが決めてやるわ。


カノンが根回しをしといてくれたおかげで門番の審査は簡単な審査でクリアした。


城からの迎えが着くまで門番と話をしたけど、この国の皇子様は国民に愛されているらしい。


内戦の多かったブリッジスの中で支配下に置かれ、虐げられ続けたトラリアの民達。 従属時代の中に生まれ、独立の英雄として散った父の志を継いだ皇子は、自らも実力で勝ち取った国軍少将の座に座っている。


この国が軍事国家を名乗る所以でもある。


まだ外交が不安定な皇国において、軍は守ってくれる盾であり、他国を牽制する強みである。


しかし軍の独裁であってはならない。あくまで皇帝の国である。

前皇帝の意志は今もしっかりと受け継がれている。



「お嬢ちゃん!お迎えだよ」


気のいい門番が手招く。

見ると、真っ赤な軍用のバギーがこちらに向かってくる。


「…あれ?」

「おうよ。国旗が見えねェか?」

「いいえ…。見えますが…」


軍用バギーって。


駐在する門番が揃って背筋を伸ばし敬礼する。

華麗にハンドルを切って縦列駐車を決めた運転手は、ドアを開けると優雅な仕草で服の乱れを直し、一礼をした。

薄手のジャケットをきっちりと着込んだ、白髪混じりの上品なオジサマだ。

背筋のピン、と伸びた佇まいは若々しい。若々しいけど。

「皇子様って…意外とお年を召してらっしゃるんですのね…」

「はァ?」


皇子様に敬礼をしたまま門番が眉を吊り上げた。


不躾な視線に気付いたのか、皇子様が苦笑する。

目元に寄った笑いジワがセクシー。


「執事のシャロームと申します。シャーリーとお呼びくださいませ。

本日、皇子は訓練の為お迎えに上がれません。主人の無礼、心より謝罪いたします」


執事さんだった。服装がカジュアルなのは彼自身も軍に所属しているからだろう。

ウチの堅物とは違い、丁寧な物腰だけどどこか猛者の目をしてる。


「大変失礼致しました。

西の王国のジュノと申します。本日は皇子にお話を伺いたく参りました」


この日の為に仕立てた淡いピンクの質素な――だけど上質な生地のワンピースの裾をつまんで頭を下げる。


「お話は伺っております。ご案内致します。お荷物を」


会釈で了承の意を示す。にっこりと微笑みながら失礼します、断って荷物を持ち上げた執事さん、もといシャロームさんの目が一瞬鋭く光った。

一瞬すぎて気付かないくらい早く、荷物を揺らして中に武器が無いことを確認した。

シャロームさんが薄く息をはいた。

おあいにく様、と心中で舌を出す。


あたしはそんな所に獲物を隠し持ったりしないわ。


お迎えのバギーに乗り込み、悪戯っぽい顔で笑んでみせる。


「今日は皇子様にお会い出来ますか?」

執事さんも穏やかに笑む。


「夜には戻られますよ」


******************************

車を走らせること20分余り。

トラリア皇国の城はシンプルで実用的な造りだった。

王国と比べてしまっているのかもしれないけど、城と言うよりは基地といった感じだ。


シャロームさんの運転は実に優雅で、慣性もなく停止した。


玄関で待たせていた召使いらしき青年がドアを開け、爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

荷物持ちを任されているらしい彼はあたしの荷物を軽々と持ち、ご案内致します、と腰を折る。


スカートをつまんで礼をし、わざとゆっくりとした歩幅で歩き出す。

数人のメイド達が揃って頭を下げる。

七分丈のシャツワンピースの下に黒いタイツを履いた彼女達の靴は、可愛らしいシルエットのスカートには武骨過ぎる軍用の編み上げブーツだ。

思わず立ち止まるあたしに、独立戦の名残です、と青年が耳打ちしてくる。

独立戦、とおうむ返しに呟き、一糸乱れぬ礼で魅せる彼女達に礼を返した。

唐突に青年が明るい声で話しかけてきた。


「ランチはお済みですか?」

「いえ、まだ…」

「でしたらすぐにご用意します!何がお好きですか?」

「いえ、私は結構ですわ。仕事がありますので…」

「しかし、それはもうコックが張り切って作ってしまいまして。

あ、これはアップルパイの匂いですね」


のほほん、と言う彼にそうですか、と笑顔を返しておく。


人の都合は関係無しですか、コックさんよ。


失礼にならないよう、アップルパイは好きですわ、と曖昧に笑う。


「でしたらお部屋までお持ちしましょう。

お仕事が一息付かれましたら召し上がってください」

「ありがとう」


それから一言二言他愛ない話をして、客間に通された。


大きな窓から青空が見える。

装飾は控え目で、落ち着いた雰囲気の中に然り気無い気遣いが光る。

客間で落ち着けないなんて、ただの見栄でしかない。

シンプルな造りは好感が持てた。


青年が去ってからたっぷり5分待って、あたしは荷物を広げた。


銃は持ってきてない。

ナイフも基本的には持ってない。

鞄の中身はほとんどが書類と機械、それと数日の間滞在出来るだけの細々とした私物。


ピンヒールの革靴を脱いでヒールの低いトゥシューズに履き替える。

普段はそんなことしないんだけど、お嬢様育ちの調査員を演じる上で必要になるから、とカノンに持たされた。


薄いピンクの柔らかい革は如何にもお嬢様、って感じであたしには似合わない。

似合わな過ぎて笑えてくる。


笑ってても仕方無いので日記帳に見せかけた記録用紙を開き城の様子を記す。

監視が無いのは確認済みだけど、あくまで日記風に。


『×月××日、快晴。

トラリア皇国に入国した。

春のクマバチ達の群れ、女王バチは忙しく動き回っている。

人が温かく、とても素敵な造りのお部屋に泊めて頂ける事になり、大変光栄である。

日記を記している今はまだ皇子様にお会い出来ていない。

夜にお会い出来るらしい。今から胸が高鳴っている。』




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