赤の洞窟 【月夜譚No.129】
血液のように赤い水は、ただ静かにそこに溜まっている。洞窟の天井に空いた穴から差し込む光が、それを深紅に輝かせる。
決して血ではないことは判っている。この辺りの鉱物が湖に溶け出して、このような光景を作っているのだ。そうと判ってはいても、やはり気持ちが悪いものは悪い。
少年は麻袋を背負い直して、赤い湖を横目に洞窟の更に奥へと足を進めた。
週に一度、彼はここへとやってくる。何も好き好んで来ているわけではない。彼には三つ年下の妹がいるのだが、彼女は病を患っていた。命にかかわるものではないのだが、この洞窟の奥に生えている薬草を毎日飲まなければ、発作を起こしてしまうのだ。
苦しそうな妹を見ているのは堪えられず、仕事で忙しい両親に代わって、兄である少年が薬草を採りにやってくるのだった。
ごつごつと岩が張り出す洞窟を、少年は慣れた足取りで進んでいく。天井に所々穴があるので光源には困らないが、今日はいつもより陽光が少ない気がする。雨に降られたら面倒だと、少年は先を急いだ。遠くで鳴り響く雷の音にも気づかずに。