第二話
「はぁはぁ…やっと着いた…」
私が降り立ったのは新越谷駅。ここは西新井から急行電車で次の次に止まる駅だ。
60年も経てば、景色も色々変わっている。60年前もここは都会だったとはいえ、西口側は一軒家の住宅街が広がっていたが、2080年現在、その様なものは見当たらず、ずっとビルが広がっている…。なお、西新井駅はそんなことはなく、景色は60年前とほぼ同じの景色であったので、とても衝撃である。2020年の人に「ここは都内です」といって、ここを撮った写真を見せても、殆どの人がこれを信じてしまうだろう。
とりあえず、この衣装を変えなければならない…
裸や下着のみの服装よりはまだマシであるが、流石に限界だ。
西口から出て、直進しておおよそ200mのところに服屋があったので、そこに寄ってみることにした。
「イラッシャイマセ」
この店には、店員含め人が一人もいなかった。
さっきの声は、私が入店にAIか何が反応したんだろうか。
ここで、上下の服を選んで、早速更衣室に向かい試着してみることとした。
今着ているゴスロリ衣装を脱いだ。
そして、「やっとこのゴスロリ衣装から解放される!!」と思って選んだ服を着ようと試みる。
しかし…
<バァンッ!!!!>
「え…?」
なんと、服が爆発四散した…
サイズが合わなかったのか?いやそんなわけがない。サイズはいつも着ている服のサイズを選んでいるし、そもそも、サイズが合わなかっただけで服が爆発四散などするはずがない。
試しにもう一つの服を着てみるが…
<バァンッ!!!!>
こちらも案の定、爆発四散した…
どうやら、この服しか着れないという呪いにかかっているらしい…
誰だよ…こんなクソみたいな呪いをかけたのは…
爆発四散した服は、更衣室にそのまま放置した。
「当店ヲゴ利用頂キ、アリガトウゴザイマシタ」
売り物の服に損害を出した上に、何も買わないというのは申し訳ないので、この店で容量が約20Lリュックを購入した、どうやらアクセサリ類や鞄類は装着しても爆発四散しないらしい。
さて、次は食料を買わなければならない…
ここから一番近いコンビニは駅中のコンビニであったので、駅に向かった。
『アニメの規制を!!アニメは児童ポルノを助長させる!!これは私たち女性の総意だ!!』
あーうるさいうるさい。出たよ、主語のデカい人達…60年経ってもこんな奴らいるんだな。こういうのは放置に限る。
『そこに、ショートパンツの丈が短い人がいるぞ!!これは男性の性犯罪を助長させる!!早く脱がせなければ!!』
目を離した束の間、街頭演説をしていた主語のデカい人たちはこのような言葉を放ったあと、そこら辺を歩いていた一人のモデルみたいな女性に襲い掛かった。
「ちょっと!!何するんですかやめてください!!」
「君の服装は性犯罪を助長させる!!今すぐ脱ぐのだ!!」
「だれかー!!助けて下さーい!!!」
「お前ら!!!やめろ!!!」
私はその集団を止めにかかった。
「私達は正しい事をしている!!!これは私達女性のためだ!!!」
もう手遅れである。私の話を聞く耳を持たない。説得不可能だ。
拳で説得するのはあまり好きじゃないが、言葉で止める事は不可能である。
「(これは正当防衛…正当防衛なんだ!!!)」
私は、その女性の服を脱がせようとしている一人に力を込めて殴った。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
<ドォォォォン!!!!!!>
<ドン!!! ドォォォン!!! バァァァァン!!!>
その一人は縦回転をしながら激しく吹っ飛び2回バウンドした後、100mくらい先の近くの建物の白い壁に叩きつけられた。
「なんだこれは…」
「こいつは、オペレーターだ!!!風紀が乱れる服装を正したいが、早くしないと私達も殺される!!!」
女性の集団は壁に叩きつられた人を回収してそのまま逃げた…
「大丈夫?怪我はない?」
こんな女性の集団は放っておいて、この女子大生の保護をしなければ…
「ありがとうございます!!助かりました!!このように私は大丈夫です。」
幸いにも怪我はなかったようだ…
この女性は透き通った銀髪のツインテール、蒼い目で、服装は上にピンクのセーター、下に青いショートパンツを履いており、身長・体系は私と(胸を除いて)ほぼ同じくらいと言ったところか。
「金髪サイドテールの紅目のゴシックロリータ服のお姉さん!!!」
「どうした?」
疑問はこの服装に関してだろうか?そんなの知らんとしか解答ができない。
「名前は何ですか?」
「…名前!?名前かぁ…」
そういえば、私の名前って何だろうか?なぜか記憶にないのだ。転生した衝撃で、そんな重要な事を跡形もなく記憶から消滅してしまったようだ…
仕方ない…名前が思い出せないならば、作ってしまおうか、タイムスリップをして全てを失ってしまった以上、名前を変えても問題ないだろう…
「あれ!?すいませーん!!どうかしましたかー!!」
いかん、つい長く考えことをしてしまった。名前を言わなければ。
「わ…私の名前は、小倉 朱雀 だ」
名前は30秒で考えた。由来も何もない。
「私の名前は紅月キリア・クロムウェルです、キリアで大丈夫です!!」
そもそも、命の恩人(?)ではあるが、いきなり初対面の人と名前を聞くのか?60年後の世界はとてもクレイジーだ。
「そういえば、さっきの”オペレーション”凄かったですね!!」
「お…おぺれぇしょん…???なにそれ????」
「え!?さっき発動していた能力ですよ!!もしかして、もう忘れたんですか??」
あれがオペレーションというのか…あの能力は一体何だったのだろう…もしかして、私が転生する前に流行っていた異世界転生系あるあるの最強チート能力だというのか?
でも、チート能力を持っているからと言って、必ずしも嬉しいというわけではない。というか、全然嬉しくないというか、逆に面白いとか言う奴がいるのだろうか?
そもそも、60年前当時に流行っていた異世界転生系のライトノベルの主人公も「チート能力だ!!やったー!!」なんて喜んでいる奴はほとんどいなかった筈だ―。
「どうかしましたか?朱雀さん、顔色が良くないですよ」
「…はっ!?」
いかんいかん…深く考え込んでしまった…
「そういえば、キリアはいくつなの?」
本来この質問はタブーに近いが、そっちも名前を藪から棒に聞いていたんだから、問題ないはず…
「私の年齢ですか?うーん…確か20歳くらい?」
20歳!?私と同じじゃないですかやだー、身長も私より5cm高いし、胸部に関しては私の2倍くらいある…。これこそ格差社会…
というか、20歳"くらい"ってどういう事なんだろうか?自分の年齢を覚えてないのだろうか…
「20歳と言う事は、今大学生なのか?」
「大学も高校も言っていません…」
「え!?中卒なの?」
「いえ…そもそも私はホームスクーリングで、小中学校にも一切行ってっていないです…」
「…えっ!?」
いや、流石にもう驚かないからな…60年も経てば、日本でもホームスクーリングが認められているはずだろう…
「あ、そういえば!!!」
「ふぇっ!?…どうしたどうした」
「思い出しました!!!私が何が言いたかったのかを…」
そういえば、初対面の人にいきなり名前を聞いたりしたからな…なんかあったんだろうか?
「私、お父さんを探しているんです!!!」
お父さんを探しているだと…?
続く…