リサイクルショップタイラ その2
「じゃあ配達に行って来るわ。そうだ、これ差し入れで貰ったから」
ドーナツの箱を手渡すと途端に目を輝かせる
「あらドーナツじゃないの、ありがとうね。さっそく戴こうかしら」
「俺チョコレートのやつね。帰って来たら食うから残しといてよ」
「はいはい。ちゃんと取って置くから早く配達にいってらっしゃい」
足早に店の裏手に向かう息子を見送ると、ドーナツをくれた見知らぬ人物に声を掛けてみる
「ねぇ、あなたも一緒にドーナツを食べない?」
「えっ…でも…」
「いいじゃない、だって1人で食べてもつまらないし。美味しい麦茶もあるし、ねっ。そういえば、あなた名前は何て言うの?」
「……凌子です」
「凌子ちゃんね、私は俊枝って言うの。で、さっきの大きくて人相が悪いのが息子の慎二、ヨロシクね」
ぐいぐいと距離を縮めて来る俊枝に驚きつつも、凌子は押されるがまま店の中へと足を踏み入れた。
2時間程して配達を終えた平良が店へ戻ると、店の奥に設けられた居室にぐったりと横たわった凌子の姿とその横で団扇で風を送る俊枝の姿に驚いた
「ただいま…どうしたんだ?」
「凌子ちゃんとドーナツでお茶してたら急に具合が悪いって言うもんだから、慌てて山本先生に来てもらって診察して頂いたんだよ」
山本先生とは近所にある診療所の医師で、近隣の住人の健康を長年支え続けている人物である
「山本先生は軽い貧血だって言うから、大事にならなくて良かったわよ」
「すいません…ご迷惑をお掛けして」
確かに凌子の顔は随分と青白くくすんでいた
「気にしないのよ。こういう時はお互い様ってやつなんだから、ゆっくり休んでなさい」
「もうだいぶ落ち着いたんで、そろそろ帰ります」
凌子は身体を起こすが、まだ呼吸は荒く苦しそうだ
「まだ無理よ。もう少し休んだほうがいいわ」
「貧血には慣れてるんで大丈夫です、本当にありがとうございました」
丁寧に頭を下げると、凌子は横に置かれていたトートバッグを手にふらふらと立ち上がる
「わかったわ。でも心配だから、慎二ちょっと家まで送ってあげてちょうだい」
「あの、ちゃんと1人で帰れるんで大丈夫です」
「安心してちょうだい、さすがにこの子だって病人相手に手を出したり変な事なんてしないから」
「おい!最初からしねぇよ!」
「でも…」
何を言っても引く様子の無い俊枝の勢いに、凌子はどうしようかと言葉を探すが続かない
「もう諦めたほうが良いよ。こうなったら引かないから、このおばちゃん」
「わかりました。それじゃあお願いします…」
平良の台詞に凌子は小さく頷くと、観念した様子で頭を下げた