平良と尚美 その4
「あんたが、あの両親を許せないのは分かった。それで復讐してお腹の子供を殺人犯の子供にするのか?」
「……それは」
「じゃあ、お腹の子供を殺してから復讐するのか?」
平良はわざと殺すと言う言葉を使い尚美の反応を伺う
「……」
「復讐して、お腹の子供と一緒に死ぬって言っても、子供を殺す事に変わりは無いけどね。もうさ~失敗したんだから諦めたら?」
正人の両親を殺したいほど憎いのに自分には殺す事が出来ない。それなら死んで正人の側へ行こうと試みたが、それもまた失敗に終わった。だからといって何も無かったように、これから生きていく事も尚美には出来なかった
「それでも…あの人達が許せないんです…。正人の事を…あんな状態になっても忘れない程の愛情があるなら…なんで、あんなに追い詰めるような事をしたのか…」
「それは俺にもわかんねぇけど~もしかしたら、あんたにならその理由がいつか分かるんじゃないか?」
「何で私が…」
「だって、あんたの腹ん中には赤ん坊がいるだろ。あの両親の気持ちが全部じゃないにしても、1/100くらいは分かるかもしれないから産んで育ててみたらどうだ?」
「そんないい加減なこと言わないで下さい!!」
平良の適当な提案に、尚美は苛立って声を荒げる
「いい加減じゃないでしょ。産む気が無いなら、とっくに堕ろしてたんじゃないの?本当はあんただって産みたいはずだよね、だってその赤ん坊はあんたが人を殺しても良いと思うほど…好きな男の子供なんだから」
いつも正人と産まれてくる子供と幸せに暮らす未来を想像し、叶わない事に何度も絶望をした。
何度も堕ろす事を考えたが正人との子供だと思うと、どうしても出来なかった…
「私…産んでも…いいんでしょうか」
「それは俺が決める事じゃないから。決めるのは母親のあんただろ?」
「私…産みたい…産みたいです」
絞りだすように呟くと尚美の眼からは次々に涙が零れ落ちた
「そうだ、これ」
平良は正人の父親から預かったスケッチブックを差し出すと、尚美はその見覚えのあるスケッチブックに息を飲んだ
「こ…これ…どうして…」
「あの父親から預かった。あんたに渡してくれって…」
「……」
震える手でスケッチブックを広げると、正人の描いた尚美の姿が幾つもそこにあった。柔らかな鉛筆の線を指先でなぞると、自分へ向けられた愛情が伝わって来るようだった
「……あ、ありがとう」
それは平良への言葉なのか…それとも正人の父親への言葉だったのか…スケッチブックを胸に抱き、泣き崩れる尚美に確かめる事は出来なかった




