平良と尚美 その2
久し振りにベッドの上で長いこと眠ったせいで尚美の頭はまだぼんやりとしていた。おぼろ気な記憶の中で救急車で運ばれた事は覚えているが、そのとき側にいた人物をはっきりと思い出せなかった。
あれはいったい誰だったんだろう…朦朧とする意識のまま白い天井を見上げていると武骨な男が視界を遮る
「おっ、目が覚めたか。腕の怪我は結構深くいってたからだいぶ縫ったみたいだぞ。しばらくの間は激しく動かすなよ」
「あなたは……平良さん…?」
「ちゃんと分かるみたいだな。そうそう~あんたの大事な絵はそこに置いといたから」
平良の示す方へ首を捻ると、尚美が集めた正人の絵が丁寧に置かれていた
「……ありがとうございます」
「あと…腹ん中の赤ん坊も無事だってさ」
その言葉に尚美の心は喜びとも悲しみともつかない感情が広がる
「そうですか…」
「嬉しくないのか?」
「正直……わかりません」
呟いた言葉に尚美の瞳が小さく揺れる
「でも、どうして…私が妊娠していると知っていたんですか…」
救急車を呼ぶ時に電話口で妊娠していると告げていた事を思い出した。2回位しか会った事の無い平良が知っている事が不思議でならなかった
「最初に瀬尾の事務所に来た時に、あんた駅前にあるカフェのプラカップ持ってただろ?そこにDCってマジックで書かれてた。DCつまりディカフェ、カフェインが入って無いコーヒーのこと。見た目はギャルぽい感じなのにカフェイン気にするなんて、なんか事情があるのかと気になったのが最初かな…」
尚美は驚いて平良を見上げる
「そんなすぐに…」
「でもまぁ~服装だったり貧血気味な事を加えても決定的で無かったから、最終的にあんたを診てくれた山本先生をレア物のミニカーで買収して無理やり聞き出した」
山本診療所の院長でもある山本先生は少々強面で貫禄たっぷりの見た目と裏腹に、密かにミニカーを収集している愛らしい一面もあるのだ
「それよりも~ギャルに変装してたり、飼ってもいない猫を探してくれって言うほうが、ぶっちゃけ気になった」
「あの格好も猫も嘘だってバレてたんだ…」
「瀬尾がビラは"裕福そうな人を選んで渡した"って言ってたからな。それならギャルの格好をした、あんたには渡して無いはずだ。それなのに、あんたは瀬尾から受け取ったって言ってた。どんな格好かは分かんねぇけど、あんたがギャルの格好じゃない時に受け取った可能性が1番高いだろ」
「……」
「猫の件も、猫を飼ってるって言う割には、あんたからは柑橘系の香水の匂いがする。妊娠には好まれるかもしれないが猫は柑橘系の匂いを嫌う。それに、あんたの服や持ち物のどこにも猫の毛が付いて無かったんだよ。ニットの服なんて特に猫の毛が付いて当たり前なのにな」
「さすが探偵さんですね…最初から気付かれてたなら、お芝居してたのがバカみたい…」
堪えきれず尚美は自嘲気味に笑いだす。
そもそも探偵は自分ではなく瀬尾なんだが…と平良は思ったが、とりあえず今は否定するのは止めておいた




