尚美 その2
「誰だお前は!!何をしてるんだ!!!」
「中村尚美…正人の恋人よ」
尚美は憎悪に満ちた視線とナイフの切っ先を正人の父親へと向ける
「恋人…?!」
「以前は追い返されたけど、今度はそうはいかないわ…あなた達が正人を殺したの?」
殺したのかと言う問いに正人の父親は身体を強張らせる
「あ、あれは事故だ…事故なんだ」
「その原因を作ったのは誰?!!あなた達でしょう!!あなた達が来なければ、正人は死ぬ事は無かった!」
尚美の言葉が突き刺さる。投げつけられる怒りと憎しみに、身体は無意識に震えた
「……そうだな君の言う通りだ。それで…私達を殺すつもりか」
「そうよ」
殺されるならそれでもいい…正人の父親に1つの思いが過る。自分たちのせいで息子を死なせてしまい、妻もこの状態だ…これから生きていく事に何の希望も楽しみも無い。それならいっそ、ここで殺され死んでしまったほうが楽になれるのだろう
「わかった。ただ…1つだけ頼みがある。妻だけは助けてくれ、妻は事故のショックで何も分からないんだ…もう、死んでいるも同然だ。だから妻だけは許してくれ」
尚美はクマの縫いぐるみを抱きながら、静かに微笑んでいる女性に目を向けると、その視線が交わる。
女性の眼には怯えも恐怖もなく真っ直ぐに尚美を見つめてくる
「どうしたの、どこか痛いの?とても苦しそうだけど、大丈夫?」
労る言葉と共に正人の母親はゆっくりと尚美に近づいて行く
「駄目だ!行ってはいけない!!」
「動かないで!!ジッとしてて!!!」
反射的に振り上げた尚美のナイフは正人の父親の掌を掠める
「……っ!!!」
「だ、旦那さま!!」
生まれて初めて人を切り付けた感触に尚美の心臓が跳ね上がる。正人の父親の手からは血が流れ落ち絨毯を赤黒く染めていく
「泣かないで…大丈夫、大丈夫よ」
正人の母親は尚美の痩せた頬を撫でながら伝う涙を何度も拭い取った




