平良と瀬尾 その2
結局カーナビへの入力は車を一旦止めて平良自身が行ったのだが、双方の怒りは収まらなかった
「だいたい何でお前、俺の車に乗ってんだよ。あぁ~失敗した~高速入る前に降ろせば良かった」
「はぁ?!君が勝手に僕を連れてきたんだろう、それを何て言い草だ!僕だって君と静岡まで行かなきゃいけないなんて嫌に決まってるだろう!!」
正人の実家は静岡県浜松市だった。高速道路を使っても2、3時間は掛かるだろう
「グチグチうるせぇなぁ!!そんなに嫌なら今すぐ車から降りれば良いだろ!こっちも静かになって清々するから助かるわ」
「こんな高速道路の真ん中で降りろだなんて、君は僕を殺す気なのか!!これは立派な脅迫だぞ!警察に訴えてやるからな」
瀬尾は怒りで唇を震わせながら運転席を睨み付けた。
実際に警察を呼ぶ事は無かったが、目的地の浜松まで続くと思われた争いは、静岡県に入って程なくして急に沈静化していった
ようやく浜松にある正人の実家へ辿り着くと、平良は門先に車を止めて表札を確認する
「矢野…ここで間違いなさそうだな」
気が付けばすっかり静かになった助手席に顔を向けると、華美なスーツを纏った男は端正な顔を青白く歪ませたシートに沈むように身体を預けていた
「おい、どうしたんだ?どっか悪いのか」
「…も……るい」
うわ言のように何か言葉を発しているが、よく聞き取れない。仕方なく平良は瀬尾の口許に耳を近付ける
「おい、何が言いたいんだ」
「き……気持ち…わ…るい」
「車酔いかよ!!」
どうやら瀬尾が静かになったのは車に酔った事が原因のようだ
「し、仕方ないだろ…こんな、小さな車で…遠出した事なんて…無いんだ…から…ウッ」
何かが込み上げてくるのか、瀬尾はアイロンのきいたハンカチを口にあてがい荒い呼吸を繰り返す
「はいはい、どうもすいませんね~お坊ちゃまの家の高級車と違って小さな車で~じゃあ、ちょっと行って来るんで、お坊ちゃまはここで待ってて下さいよ~」
車酔いで嘔吐く瀬尾を残し、平良は愛車を降りると立派な門扉へ歩みを進める。取り付けられているインターホンを押すとリズミカルな音が鳴り渡るが返答は無い。だが、ここまで来て簡単に引き返す気など毛頭ない。平良は門に手を掛けると無遠慮に入り込んで行った




