探偵事務所 その2
「美しくない。」吐き捨てる言葉と共に整った顔を歪ませる。身に纏っているスーツは質の良い生地で誂えたオーダーメイドの1点物でイギリス紳士を思わせる様なカッチリとした印象だ。上等なスーツを身に付けても難なく着こなしてしまうのはジム通いで鍛えられた筋肉と育ちの良さが伺える柔和な雰囲気に因るものだろう。
「ねぇ、平良。いい加減あの道路に並べられた粗大ゴミをどうにかしてよ」
忌々しい表情で外を見つめるとわざとらしくブラインドを指で弾いた
「あぁ~そのうちなぁ~」
12畳程ある部屋の中央に置かれたアンティーク調のソファーに横たわった大柄な男が雑誌を捲りながら気の抜けた返事をかえす。
部屋はワンルームの様な造りにで壁などの仕切りは無く長方形のシンプルな形になっており簡易的なキッチンと洗面所はあるが、入り口から見えないようにパーテーションで目隠しがされている。家具や机などはダークブラウンで揃えられておりクラシカルなモスグリーンの壁紙には数枚の絵が飾られていた。
「そのうち、そのうちって言うけど君はちっとも片付けないじゃないか」
「あのね~我々庶民は瀬尾のお坊ちゃまと違って忙しいの。それにアレは粗大ゴミじゃなくて商品だから」
グラビアページを穴が空きそうな勢いで食い入るように眺めていると、乱暴に取り上げられる。
「君のどこが忙しいだって?昼間っからこんな下品な雑誌を見ているだけだろう」
「あのな~オレだって好きでお前の所になんて来てねぇよ。お前のママに頼まれてしょうがなく様子を見に来てやってんの!雑誌くらい息抜きに読ませろよ!」
「君はもう十分過ぎるくらい息抜きをしているだろう。少しは動きたまえ!」
たまたま通う高校が同じで、たまたま同じ学年で、たまたま同じクラスだったせいなだけで親しかった訳でも無い。それが卒業して12年こうして顔を付き合わせている理由は、この辺りの地主でもある瀬尾家が所有している土地でリサイクルショップ店を経営している事に他ならない。
溺愛して育てた息子が突如"探偵事務所"を開きたいと言いだし慌てた両親が息子の世話をみる事を引き替えに、賃料のの半額を条件に平良家に押し付けてきたのだった。全力で申し出を断りたかった平良だったが、半額という餌に嬉々として飛び付いた両親の前ではどうする事も出来なかった。