平良 その2
「平良、君も大概"接客"というものが向いていないようだね」
「はぁ?今のはたまたまだ。そもそもお前に接客について、とやかく言われたくない」
「……。」
お互いが自分のがマシだと思っている時点で、大差はない
「それで、突然大声を上げた原因は何なんだ?」
「あぁ~これだよこれ」
カウンターの下から1冊のファイルを取り出すと、これ見よがしに広げる
「これはなぁ~買い取り用の台帳だ。あの田中のじいさん、いつだったか物を売りに来てた気がすんだよ…確か、俺が配達に行く時ここで母ちゃんと話してんの見た…と思う」
曖昧な記憶ではあるが、台帳に記された"た行"のページを1枚づつ捲っていく
「高橋…田島…」
平良に合わせて、瀬尾も一緒になってカウンターの上に置かれた台帳を覗き込む
「田中…田中」
紙の上を彷徨っていた指が突如止まる
「あぁ~!!あったぞ!!!」
「本当か!」
それまで食い入るように台帳を見詰めていた平良はついに目当ての物を見付け出し、その勢いのまま顔を上げる。と突然、後頭部に衝撃が走った。鋭い痛みに後頭部を抱え前屈みになると、足下には呻き声を上げながら瀬尾が蹲っていた
「「いって~っ!!!」」
どちらのとも分からない悲痛な叫びが店内に響く
「何でお前そんな所にいたんだよ!!」
「君こそ!いきなり顔を上げるんじゃない!!」
痛みで歪む瀬尾の表情は手で覆われ殆ど見えなかったが、白く長い指の隙間から赤い筋が染み出てくる
「ち、血だ!血ぃ!!!」
ぬるりとした感触に瀬尾は驚きのあまり目を剥いた
「鼻血ぐらいで大騒ぎするなよ!ティッシュでも詰めときゃ、そのうち止まるだろ!」
冷たく言い放つと、平良はカウンターに置かれていたティッシュ箱を乱暴に投げ付ける
「は、鼻血ぐらいとはなんだ!!僕はこれまで鼻血なんで出した事は無い!!!そもそも、そう言った台詞は加害者が言う台詞ではないだろ!」
「誰が加害者だよ!俺だってお前の顔が後頭部当たって腫れてるんだからな!!立派な被害者だ!」
「どこが被害者だ!僕は怪我をして血まで流してるんだぞ!!」
「鼻血なんて怪我のうちに入んねぇよ!これだからお坊ちゃんは嫌なんだよ~」
「なんだとぉ!!!」
「いい加減にしなさい!!!!!」
その声は罵り合う2人の声をいとも容易くかき消した
「さっきから店先で大声を上げて!!いったい、どこの不審者かと思ったわよ!!!」
店の奥から騒ぎを聞き付けて、俊枝は慌てて飛んで来たようだ
「不審者じゃねぇよ!あんたの可愛い息子だよ」
「うるさい!うちに可愛い息子はいません!!」
反省の色がまるで無い息子の姿に俊枝は深く息を吐いた




