アパート その2
居ると確信した途端に、平良は躊躇なくドアを叩き始めた
「すいませ~ん。大家の瀬尾ですけど~田中さんいるんでしょ~少しお話しがあるんですけど良いですか~」
通りの向こうまで響くような大声を張り上げてドアを力いっぱい叩き続けると、観念した様子で痩せこけた背の低い老齢の男が飛び出して来た
「ちょ、ちょっと止めて下さいよ、何なんですかいったい…家賃ならちゃんと払ってるでしょ!」
ところどころ穴の空いたTシャツは長いこと着ているせいか襟まわりがすっかり延びきっていて男の薄い身体を目立たせている
「あ、あんたら誰だ?本当に大家か?」
平良と瀬尾の姿に怯えているのか、ギョロりとした目は視線が揺れて定まらない。碌な生活を送っていないのだろうか、伸びっぱなしの無精髭に目のまわりは窪んでいて肌も随分と黒ずんでいる
「お忙しいところすいませんね。こちらがこのアパートの大家の瀬尾です。で、俺はその知り合いの平良です。田中さんは~このアパートで20年以上ひとり暮らしをされてますね」
瀬尾の持参した住人名簿を取り上げると、当たり前の様に目を通して読み上げる
「だ、だったら何だって言うんだよ…」
「いえ、只の確認です~それで隣に住んでいた矢野正人さんについてなんですけどね」
「知らない、そんな奴なんて俺は知らない!!」
それだけ言うと、田中はドアノブを掴む手に力を込める
「まぁ、まぁ、田中さん。話しはちゃんと最後まで聞いて下さいよ」
閉まり掛けたドアの縁を掴むと無理やり推し開ける。平良の馬鹿力の前にドアは呆気なく開かれた
「ヒィッ!!」
田中が上擦った声を上げる
「大丈夫ですよ、何にもしませんから。ただ話しを聞くだけですから、ねっ安心して下さい」
「……。」
安心しろと言われても、180cm以上はある平良に見下ろされれば恐怖ご勝り安心など出来るわけもなく、田中は幾つもの皺が刻まれた顔を強張らせる
「隣に住んでた矢野正人さんが事故で亡くなられたのは知ってますか?」
「……あぁ、知ってる」
観念したのか、田中は隣の住人を知っていると認めた
「隣の部屋なんですけど、今は空き部屋のはずなんですけどね~どうも誰かが出入りしているみたいなんですよ。田中さん誰か見たこと無いですか?」
「見て…ない」
「ここ最近の話しなんですけどね。本当に見てないですか?」
「見てない…です」
「本当に?」
「本当に…」
厳つい風貌の平良に気圧され只でさえ小さい田中だが、その声と共にどんどんと縮こまっていく
「そうですか~誰も見てないとすると、幽霊でも出たんですかね」
「き、きっとそうなんじゃないですか、女の幽霊が住み着いてるんですよ」
「あれ~何で幽霊が"女"だと思ったんですか?亡くなった隣の矢野さんって男ですよね?それなら普通は男だと思いませんか?なのに女だと思ったのは何か理由があるんですか?田中さん~」
「そ、それは…」
「それは?」
ここぞとばかりに詰め寄る平良に田中はもう降参するしかなく、ボソボソと語りだした




