リサイクルショップ その3
愛車のミニワゴンの助手席に凌子を乗せ車を走らせる。凌子の家は商店街からそれほど離れてはいなかったが着いた先に有ったのは築30年は優に越えていそうな2階建ての寂れたアパートだった
「マジでここに住んでるの?」
「はい」
「随分と古いように見えるけど…」
「住んでみると意外と平気ですよ。家賃も安いですし」
「そうなんだ…まぁ、安そうだもんな」
実家暮らしの立場で偉そうな事は言えないが、見れば見るほど老朽した外観に年頃の女が住むには大丈夫なのかと要らぬ心配をしてしまう
「送って頂きありがとうございました。それじゃあ…」
顔色が幾分よくなった凌子は車から降りると、真っ直ぐに古めかしいアパートへ向かって歩き出す。錆び付いた金属製の外階段を登りきると、直ぐ側にあったドアを開け中に消えていった。その様子を確認すると平良は再び車を走らせた
店に戻ると凌子が横になっていた場所にはいつも通りに簡素なテーブルが置かれ、何故かそこにドーナツを頬張る瀬尾の姿があった
「あっ!何でてめぇがドーナツ食ってんだよ図々しいな!!」
「君の母上にご招待されてね。初めて食べたけど、なかなか美味しいよ」
「あら、瀬尾のお坊ちゃんはドーナツを召し上がったこと無いんですか?」
俊枝は淹れたての熱いお茶をテーブルに置くと、驚いた表情で瀬尾を見詰める
「はい、初めてですね」
「しかもお前が食ってんの俺のチョコレートのやつじゃねぇか!!なに人のもん食ってんだよ!!」
「それはちょうど良かったですね。いっぱいあるんで沢山食べて行って下さいね」
「ありがとうございます。それじゃあ遠慮なく」
皿に盛られたドーナツに手を伸ばし、今度はオーソドックスなドーナツを1つ手に取った
「いいわけないだろ、少しは遠慮しろ。俺はまだ1つも食ってないんだぞ!だいたい俺はチョコレートのを取って置けって頼んだだろう、それを真っ先に食わしてんじゃねぇよ!!」
堪えきれず平良はテーブルの上の皿を取り上げると2人を睨み付ける
「いい加減にしなさい!!!」
テーブルを叩き付ける音と共に俊枝の怒鳴り声が響く
「30にもなってドーナツだチョコレートだってグチグチと!お母さんもう情けなくて、ご先祖様に申し訳ないわよ!!」
「歳は関係ないだろ!」
「関係あるわよ!苦労して育てた結果が図体は無駄に大きいくせに、こんな器の小っちゃい人間を育ててしまった母さんの気持ちがアンタにわかる?!」
近くにあったタオルを掴むと大袈裟に顔を覆い声を上げて泣く素振りを見せる。俊枝のいつものパターンだ
「また始まった…」
平良が悪さをする度に決まってこの芝居がかった泣き真似を始める。一昔前のメロドラマみたいなノリに付いていけず、ウンザリとした溜め息が漏れた




