2+6 ウトウ村1
遅れました。やべぇゼ。あとこれ何話か続くぜ。
手に取った依頼の紙をズボンのポケットにしまい、少なくなった客の対応に戻る。対応が早く終わればその分早く依頼の場所に向かえる。が、依頼に完全に気を取られていたので時間の進みが遅く感じた。朝からの手のもやもやとした違和感が全く治らないのもあり集中できなかった。
日が落ちて、客がいなくなったタイミングで適当に店を閉める。もちろん時間を確認する方法なんてのはまだない。酔孤は敬が依頼に行くことを伝えるまで能力を使って遊んでいた。そのせいか遊んでいた場所の厨房には、果物と刃物が散乱している。
「帰ってくるまでには片付けとけよ。」
「気づいてない?それとも自分でやれってこと?」
「もちろん後者だろ。今すぐにでもやってくれた方が安心できる。」
「はーい、んじゃぁ『ダウト』」
酔孤がそう言うと散らかっていた果物と刃物が消え去る。
「行ってくる。留守番よろしく。」
「遅くなるなら先に寝とくけど。」
「わかった。」
そう言って敬が外に出て、出入り口の扉を閉める。辺りはいつもと違いとても明るかった。橙色の光が辺りを照らしており、風景がガラッと変わっていた。所々に日本語の看板や、見たこともない文字の看板が建てられているのがはっきりと見えた。そして、その文字はあのボードの文字と全く同じ字があるのが分かった。
依頼の場所は近いらしい。が、風景が全く違うということと、道が変わっているのは見て明らかなので、少ない通行人の一人に案内してもらった。知らない文字の看板のことで少し不安になっていたのだが、日本語は通じたようだ。
小さな村に着くと早速人が襲われている。人型の化け物でよく見ると影がないことが分かる。辺りを少し見渡すと他にも同じような化け物が集団で腕らしきものを食べている。
「っ―――グッ、ングッ」
泣いている声が聞こえる。泣くのをこらえようとしているのだろうか。他にも過去の出来事を連想させるような人の叫び声などが聞こえてくる。ザシュと千切れる音や化け物の咀嚼音も聞こえてくるので気分が悪くなる。しかし今回会った化け物は今まで見たことがなく対処法が分からないので、助けようにも助けられない。能力を使えばいいが巻き込んでしまう可能性があるためむやみには使えない。
考えるうちに時間は過ぎる。少しづつだが確実に死人を増やしていく。依頼人の姿は見当たらない。
「少しづつ狩るしかないか。」
敬は近くの家にいる化け物3体に近づく。人が化け物に殴られている最中だった。襲われている人も最初は化け物を倒そうとしたのだろう、鉄製の刺突するタイプの剣が襲われている人の足を貫通し地面に突き立てられていた。観察しながら近づいていくと、後ろから声をかけられた。
「テキ ナニシニキタ」
後ろの声をかけられた方に体を向けながら両手を上げる。姿を見てみると化け物が槍をこちらの首に向けていた。見逃していたのだろう、3体の他にもあと一体いただけだ。
「コロシニキタノカ ブキモナイノニカ」
「オイ テキダ コロセ」
「ケンデサシコロセ ソコノケンデ」
他の3体もこちらに向かってくる。そのうちの1体は刺してあった剣を引き抜き、こちらに向ける。
剣を抜かれても、襲われていた人は一切悲鳴を上げず絶叫もしなかった。
「話せるのか、化け物にしては珍しいな。」
「レイセイダナ コロサレルノニモカカワラズ」
「これからのために観察しといた方がいいと思っただけだ。」
化け物は笑いながら顔を見合わせた後再びこちらを見る。
「テキダガオモシロイ ツカマエルゾ」
と言い、足元に槍を刺そうと化け物の一体が構える。それと同時に、そこら辺に落ちている石を他の三体が拾い上げ片手で握りしめる。おそらく槍を刺した後殴って気絶させるためだろう。
「本当に刺すのか?まだ話をしたいんだ。」
「イマサライノチゴイカ モウオソイ」
敬の足を貫通し地面に槍が突き刺さる。