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こんなに可愛い男の娘がアイドルになれないワケがない!

 それは光の奔流であった。客席は色とりどりのペンライトで輝き、ステージはその光よりも強く、いやその輝きを受けて、より強く輝いている。ステージには色彩豊かなアイドル五彩ごさいの姿があった。

 舞台端でその輝きを眺める男。このアイドルユニットのプロデューサーである岐形きがたユウはその光景を見て涙すら零していた。

「みーんなー!まだまだイケるー?ヘバッてなーい~?

よっし!じゃあボクに付いてこーい!」

 桃色の髪を靡かせて西池揺せいけ ようが弾けるような笑顔で客席に声を掛ける。ステージの最前面にまで進み、顔いっぱいに笑顔の花を咲かせて、全身で喜びを表す。客席のファンたちだけでなく、スタッフたちすら思わず笑みをこぼしてしまうような姿。

(でもいくらなんでも前出すぎじゃね?あれ、予定だとこの間奏の後は中央でデュオじゃん!

メインを揺とあの娘とで歌うってのにいいい!!)

 ユウの心配は杞憂となった。最前面で楽しげにコールを行う揺の元にデュオの相手が駆けつけてきた。

「揺ちゃん!いえーい!」

「いえーい!」

 ステージの上で桃色と青色が交錯する。

「みんな!私の事忘れてなーい?」

 悲しげにそう言えば客席から悲鳴のような歓声が上がる。途端に機嫌を百八十度変えれば、観客たちも釣られてご機嫌に。その反応が極限まで高まったとき、二人の歌声が先程の悲歓を消し飛ばすようにステージの大型スピーカーから放たれる。

 偶然ではない。青髪の鹿雀かのずシアは元々役者を志望しており、観客を引き込むのが非常に上手い。その上曲の入りが抜群に上手く、シアに任せておけばステージの上は回るとすらユウは考えている。

 二人はステージの最前面で歌い踊る。本来ならば中央で踊るはずであるが、二人共元のダンスを即興で改変して、しかもそれがおあつらえ向きなもので。進行管理のスタッフや岐形ユウ以外は予定通りだと疑いもしない。

 そして次の曲だ。アイドルソングではありえないような重低音が響く。さっきまで前に出ていた二人もステージの後方に下がる。悲鳴のような高音に導かれて一彩が前にその姿を現した。

 銀色の髪、真紅の瞳、左目に付けた眼帯、褐色の肌。白鳳紋はくおう あやだ。

「アタシに声を捧げろぉぉぉぉぉおおお!!!!」

 客席からのコールが一際大きなものになる。

 大音量のコールを一身に受けた紋は、左目の眼帯を掴み、引き千切る。眼帯の下から漆黒の瞳が姿を見せる。そして口を開いた。

「YYYYYEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAHHHAAAAAAAAAAAAAHAAAAAHAAAAAAAAA!!!!!!!」

 大音量を超える超音量の咆哮が響き渡り、曲が始まる。心臓を鷲掴み叩き打つようなリズム。頭が吹っ飛んでしまいそうなほどに振り立てる。紋の後ろには四つの彩が付き従う。その中には揺もシアもいる。早着替えを終わらせて駆けつけてきた仲間たちも含めて激しくその身を焦がす。

 白鳳紋が歌う。おどろおどろしいサウンドを跪かせ、刺々しい歌詞に身体が砕けんばかりの心を込めて。紋は前の二人と違い、元は素人であった。だが厳しい練習を乗り越え、更には他の彩々にはない声量で観客も一緒に舞台に立つ仲間も飲み込むほどの力を手に入れた。

 破壊的なサウンドが鳴り止む。

 終焉を表すように、会場が闇に包まれる。

 突如、真っ暗だったステージに閃光が放たれた。元気一杯に飛び込んできたのは赤い髪の彩。

「おっしゃ!オレの出番だ!行っくぜぇー!」

 まるで特撮のヒーローのようにポーズを決めると、ステージでパァンと音がして爆発が起こり、火花が上がる。実際は膨らませた袋を叩き割るようなものだが。そこは光と音の魔術で誰も彼もがここで特撮の悪役の攻撃でもあったのかと思うほど出来栄えだ。

 佐竹千夏さたけ ちかは底抜けに明るい歌を歌う。分かりやすいテンポが、しかし、突如変化していく。一つの曲なのに、まるで次々と姿を変える変身ヒーローのように次々と曲調が変わっていく。

 揺はその可愛らしい声でサブボーカルに付きどんどんノリノリに上げて。

 シアはちょっかいを入れるような、しかしむしろ千夏のギアを上げていくような合いの手を。

 紋は真横から千夏と並び立ち、互いに競い合うようにボルテージが上がっていく。

 アイドルヒーローは頼りになる仲間と共に、ステージの上にて歌声で闘う。

 クールにその身を翻してステージ中央を去る姿に、ファンたちは思い思いのヒーローの姿を垣間見た。

 変わって中央に立つは黄髪の彩。

「ついに、妾☆降臨!」

 キラリと現れたのは五人目の彩。黄色の髪を揺らす間瀬羽玲来ませば れく髪の一部が、尻尾のように揺れる。他の四人より体格こそ小さいが、その動きに遜色はなく。むしろ機敏さや軽快さが現れてみえるほどだ。明るく派手に、楽しく派手に。ヤケになったようにすらみえる派手さで歌い上げる。

 心が楽しく踊りだすような、明るく楽しい歌声が会場を満たしていく。次々と上がっていったテンションが冷めることなく、しかし、緩やかになっていく。


 歌声に急かされながら、岐形ユウは仮設の控室に走っていた。この曲が終われば一呼吸分ほどの休憩がある。ステージで踊る彩たちが少しでも休めるように。準備が必要なのだ。

「揺のカルピスよし。シアの自作栄養補液よし。紋のマスクとストロー付きボトルよし。千夏のポカリよし。玲来のポカリもよし!

よし、オールグリーン!」

 ユウがぐっと拳を握ったあたりで拍手が聞こえてきた。控室に向かってくる五つの足音も聞こえてきた。

 そして勢い良く扉が開かれる。

「たっだいまー!」

「っとぉ!おかえり揺!ほら、カルピス。」

 跳びついて来た揺にカルピスを渡して、ユウは少しでも休めるよう椅子に押し付けるように座らせた。

「あーん、ボクプロデューサーのカルピスだーい好き!」

「なんか不穏な言い方止めろ。」

 しっかりと扉を閉めたシアが自分の飲み物を手に取って椅子に座った。そして一息ついてから思い出した様に言う。

「プロデューサー、進行の人が五分押しだって言ってた。

千夏のコールやっぱり長いよ。」

「えー!うっそだろ!

オレ頑張って、こう…頑張ったのに!」

「分かった、そこは進行と話しとくよ。」

「な、なぁプロデューサー…オレ、もしかして…。」

 ユウは不安そうにそう言う千夏の頭を両手で捏ねくり回す。

「大丈夫だって!むしろファンのみんなが楽しんでるってことだよ!」

「そ、そっかな?そうかぁ…!」

 嬉しそうに頬を緩ませて千夏がポカリのペットボトルを握ったり離したりしている。ちなみにシアはといえば周りの様子など何処吹く風と腕を組んで寝息を立てている。これで時間になれば即座に起きてアイドルという役に成り切れる辺り、シアも筋金入りだ。

 ユウは声をかけていない二人へと顔を向ける。

「紋、お疲れ!」

「……!……!!」

「よし、元気そうだな。」

 肯定するように頷く紋は、マスクを付けて喉に良いドリンクを少量ずつ流し込んでいた。破壊的なまでの声量が声帯に悪影響を及ぼさないはずがないので、紋の喉は特に労っている。

 そして、机に突っ伏す者が一人。ユウはその者の横に腰を下ろした。

「なんだよ、まーだ吹っ切れてないのか?」

「ステージだと元気一杯なのにねー?」

 クスクス笑いながら揺が言った。言われた玲来は恨みがましい顔を上げて揺を睨み、ついでユウへと顔を向ける。


「だってこんなの絶対おかしいって!

ユウ兄ぃ、わ…僕も、ここにいるみんな男のコだよ?それがアイドルって…しかも、女の子の格好して!

ぜ、絶対変だよ!」

 真剣な言葉であった。ユウはこのアイドルユニットのプロデューサーとして。そして玲来の従兄として。

 真剣に言葉を選んで言った。

「可愛い男の娘がアイドルになれないワケないじゃないか!」

 揺は楽しそうに笑い、シアはしばしの眠りに浸り、紋は照れたようにオッドアイの瞳を伏せ、千夏は恥ずかしそうに頬を掻き。

 玲来は顎が落っこちてしまいそうなほど口を開けていた。玲来はそれでも何か言い募ろうとするが、それより先に控室の扉がノックされる。

「時間でーす!スタンバイお願いします!」


「よーし!後半戦もボク頑張っちゃいますよ!

プロデューサーも、ファンもみ~んなボクの虜にしちゃって……きゃー!」

 西池揺せいけ ようが両手で自分の頬を包みながら、嬉しそうに頭を振りながら言った。揺の股間のあたりで衣装のスカートが少し持ち上がっている。

「ふぁ…あー…アイドル再開か…早く俳優になりたいな。

………はいっ!私も揺ちゃんに負けないくらい!みんなをメロメロにしちゃいまーす!」

 鹿雀かずめシアは素の自分から即座にアイドルの役に成り切る。これもまた演技の練習件生活費のため。シアは生きるためと生きたいがためにアイドルを演じる。

「ぁー……あー……あっあー…うん、行ける。

それじゃあ、プロデューサー…頑張ってきます。」

 白鳳紋はくおう あやは歌うのが好きだ。そして本当の自分を教えてくれたユウのために。ハードなサウンドに。ディープな思いを込めて。ヘヴィな歌を歌う。

「ぃよっし!それじゃプロデューサー!

オレ今度はバシッとキメっから!見ててくれよな!」

 佐竹千夏さたけ ちかが握った拳を大きく掲げる。アイドルの服装が恥ずかしいのか頬を赤く染め。ユウに褒められると、なぜだか嬉しくて腰の辺りがムズムズする。上手く言葉にはできないが、だからこそ千夏はアイドルをしたいと思っている。

「………恨んでやる…呪ってやるぅー!一生彼女が出来ないようになれぇー!」

「ほらほら、ステージ行くんだぞ?」

「…うぅ…うー……妾☆行っちゃうぞー!頑張りーんりん!」

 間瀬羽玲来ませば れくは完全にアイドルになっていた。そう、アイドルだ。お前はアイドルになるのだ。


 五人の背を見送ったユウは、一人控室に残っていた。

「確かに、バレたらとんでもないことになる…なにせこの事は俺と社長とあの娘たちしか知らないからな!

この道は険しく…そして、厳しいものだろう!しかし、俺はやってみせるぜ!そう、あの娘たちを立派なアイドルにする!

それが、俺の使命!」

 血が出るほど強く拳を固めながら、ユウは誓った。あぁ神よ!彼に七難八苦を与えたもう!しかしてどうか、この純粋な願いだけは聞き届け給え!

 

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