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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
14歳

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71:王都の香水と目標達成?

 アンジェラが倒れ、マーロウと彼女が久々の対話をした……という出来事の後、私はそそくさと滞在場所へ戻った。

 王太子には、大変感謝された。


 そんな彼は今、アンジェラに対する心ない発言の数々の真相を調べるべく動いている。

 別れる際、マーロウはアンジェラと会話が成立した奇跡に驚きつつ、「妹の気持ちが少しわかったので、解決できることがあるかもしれない」と、私に告げた。



 さて、今日はリカルドに王都を案内してもらう日だ。

 律儀な彼は、私の滞在先まで馬車で迎えに来てくれた。


「ブリトニー、どこか行きたい場所はあるか?」

「王都で流行っているお店に行ってみたいな。ハークス伯爵領の役に立ちそうな情報を仕入れたいから」

「お前は真面目だな。わかった、そういうことなら何件か当てがある」


 私たちは小型の馬車に向かい合って座っていた。

 仮面パーティーで彼と急接近した出来事を思い出し、少しだけ落ちつかない気持ちになる。


「この近くに、王都で有名な香水店がある。ブリトニーの興味がある分野だと思うのだが」

「うん、嬉しい。ありがとう、リカルド」


 そこで菓子店とか言い出さないあたり、リカルドは私のことをよく理解している。


「ところで、ブリトニー。お前、領地に戻った後はどうするんだ? 確か、こ、婚活をすると言っていただろう?」

「ああ、それね。パーティーに出たら、なんとかなるかなあと思ったんだけど。声、掛からなかったんだよね」

「仮面……だったからな。婚約者探しには、向かなかったかもしれない。それに、お前はほぼ俺や王太子殿下と喋っていたし」

「少しだけ他の人とも喋ったけれど、既婚者か婚約者持ちばかりだった」

「そ、そうか」


 どことなく、ソワソワした様子のリカルドは、私に目を合わせた。


「その、ブリトニーの婚約の件だが……もし、お前さえ良ければ。許されるのなら、俺から申し込んでも良いだろうか」

「えっ? もしかして、パーティーで言っていた話?」


 パーティーの際、私はリカルドから、「仮に自分と婚約したら」――という旨の話をされていた。


「ああ、そうだ。お前が気にしていた俺の将来の件だが……今後は領地を継げるよう動く。今すぐにとはいかないが、最終的にはアスタール伯爵領を継ぎたい。もちろん、無理に婚約を迫るつもりはないし、ブリトニーの意志を尊重したい。俺は、二度も婚約を破棄した不誠実な男だからな」


 パーティーの時にしていたのは、「仮に」の話だったが、実際にリカルドが動いてくれるのなら、私にとってこれ以上良い話はない。

 リカルドとなら、今のような感じで、それなりに仲良く暮らしていけそうである。

 そして、リュゼとの約束にも間に合う。


「リカルド、本当に私でいいの? 私は、リカルドが相手なら嬉しいけど」

「……! も、もちろんだ。俺も、ブリトニーとの婚約を、やり直せるならありがたい。お前こそ、本当にいいのか?」

「うん、どうせ婚約するなら、見ず知らずの誰かより、友達のリカルドがいいよ」

「なら、後日正式にハークス伯爵へ婚約の件を知らせる」

「リュゼお兄様なら、きっと承諾してくれるよね」


 婚約の話を終えたタイミングで、馬車は王都で流行りの香水店に到着した。


「俺は、香水の類には詳しくないから、説明できないが」

「大丈夫だよ、私も基本的なことしか知らないから。リカルドも一緒に見よう」


 二人で一緒に香水店の店に入る。

 この店は主に富裕層向けの香水を取り扱っており、中の雰囲気も高級ちっくだ。

 早速店主が、人気の香水を紹介してくれた……のだが。


「うっ……!」


 店主が出した香り見本を嗅いた私は、思わず息を止めた。


(く、臭い! これ、本当に身につけるものなの!?)


 なんというか、とても強烈な香りである。とにかく匂いが強い……!


「こちらは新作の香水で、異性を惹きつける香りと言われています」

「え、本当に!?」


 隣では、リカルドが臭さのあまり悶えている。

 彼は香りに惹きつけられるどころか、今にも逃げ出しそうだ。


「麝香鹿の雄の腹部にある、匂いを放つ分泌物が原材料なのですが、とても高級な品でして……」


 たしか、麝香鹿の分泌物を薄めたものからできた香料は、前世でムスクと呼ばれていたはずだ。

 だが、こちらは薄めておらず原液に近い状態なのか、とにかく強烈である。


「麝香猫のものと、麝香鼠のものもありますが。どちらも、似た効果が……」

「そ、そうですか。あの、他に香水はありますか?」

「そうですね。あちらにあるものは、鯨の体内に発生する結石からできたもので、少し深みのある香りがします」


 嗅いでみたものの、また同じような悪臭がした。

 ちなみに、前世で鯨の結石から取れる香料はアンバーと呼ばれている。

 ここの香水店は、動物系の香料を中心に取り扱っているようだ。


(でも、これはない)

 

 私とリカルドは、早々に店から逃げ出した。


「すまない。紹介しておいて悪いのだが、臭いがあまりにひどかった」

「うん、私もそう思う」

「と言いつつ、なぜその香水を買っているんだ? 瓶に密封してあるから、大丈夫だが」

「これね、本当はもっと薄めて、他の香りと混ぜて使うものなんだ。この世界……じゃなくて、この国ではまだ動物系の香水が出始めたばかりで、香りが濃いものが出回っているみたいだね。ハークス伯爵領で薄めて使えるように実験してみる」

「そうなのか、それは助かる。こんなのをつけた女たちがうようよいるパーティーなんて、悪夢としか思えないからな」

「匂いは強烈だけど、高級品なのは確かなんだよ。私が買った麝香鹿の香水も希少だし。今日は、案内してくれてありがとう」


 前世で麝香鹿は国際取引が禁じられており、ムスク系の香料は人工的に作られたものが多かった。

 だから、これは本当に貴重なものなのだ。

 ハークス伯爵家の新しい事業として、私は香水やそれを使った入浴剤などを開発する予定である。

 新しい香りを使えば、石鹸の香りのバリエーションも増えるし、領地の役に立てるだろう。


 私とリカルドは、その後、王都で女性に人気の店を数件回った。

 リカルドが、かなり気を使って店を選んでくれたようで、少し申し訳ない気持ちになる。


 彼は、そのうちの一軒で私にペンダントまで買ってくれた。

 王都に新しくできたアクセサリー店を出たとき、彼の手のひらに小さな箱が置かれていたのだ。


「ブリトニー、本当はもっときちんとした品を送りたかったのだが。とりあえず、約束の証に持っていてもらえないだろうか」

「え……? 約束って、もしかして」

「婚約の件だ。父に話を通し、夏の休暇に一度領地へ戻る。もちろん、ハークス伯爵領へ寄らせてもらうつもりだ」


 真面目な表情になったリカルドはネックレスを手に取ると、直接私の首にかけてくれた。 

 彼との距離が近づき、後ろに回された手が首に触れる。心臓が、大きな音を立てて脈打った。


(こうされると、またリカルドのことを意識してしまう)


 彼に恋情を抱いているわけではないが、こういうのは落ち着かない。

 気恥ずかしくなった私は視線を泳がせ、それを押し隠した。


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