251:白豚令嬢、保護される
リカルドは、すごい勢いで馬を走らせている。
(追いかけてきてくれたんだ)
嬉しい。このまま、路頭に迷う心配がなくなったのも嬉しい。
もう辺りは暗くなってしまったし、知らない土地で置き去りなんて辛すぎる!
(アクセル様は、リカルドに気づいていたんだな……)
だから、ここに私を下ろしたのだろう。
馬から飛び下りたリカルドは全力で駆け寄ってきて私を力いっぱい抱きしめた。
「ブリトニー! 無事でよかった! 本当に心配した」
「このとおり、元気だよ」
「怪我はしていないか? すまない、みすみすお前が攫われるような真似を……」
「無傷だし、大丈夫。ちゃんと馬車から下ろしてもらえたしね」
攫った相手や状況についてリカルドは全部把握できていないだろう。
私は何があったかを、一から彼に全部説明する。
「……というわけで、私を馬車に押し込んだのは、ヴァンベルガー侯爵のアクセル様だったの」
「あの男、性懲りもなく他国までブリトニーを追ってきたのか」
「でもね、きちんと話したら、わかってくれた。周りの状況が変わった要因も大きいけど、結婚は諦めるってさ」
私は彼との取り引きについても、リカルドに知らせた。
こちらも得をすることにはなるので、一考の余地ありだと思う。
いちいち感情的に怒鳴って全てを蹴散らしていたら、得られるものも得られないままになってしまう。何も生まないそれは、あまりに惜しい行動だ。
だから私は、アクセルとの取り引きを選んだ。
まあ、苛立ちを抑えきれなくて、かなり文句も言っちゃったけど……
「ブリトニーがそのつもりなら、俺はお前の選択を否定しない。だが、本音を言うと、今すぐあの男を牢屋にぶち込みたい。さんざんこっちを振り回しておいて、一人満足して帰るなんて」
リカルドが私を思って発言してくれているのがすごくわかる。
彼が代わりに口に出してくれるおかげで、私の中の迷いや不安を薄めることができた。
「ありがとう、リカルド」
自分を抱きしめる彼の体にそっともたれる。
リカルドは全て受け入れてくれた。
「拠点の皆もブリトニーを心配している。そろそろ戻ろう」
「うん……」
リカルドは自分の馬に私を乗せ、引き連れてきた兵士たちと一緒にUターンする。
彼の胸に背を預けながら、私はぼんやりと東の国の風景を見回した。
木がまばらに生えた林と、背の高い草に覆われた原っぱ。小さな街道沿いに、ぽつぽつと民家が建っている。
「そういえば、私を襲ってこようとした追い剥ぎっぽい人たちは?」
「全員捕まえた。だが、ヴァンベルガー侯爵との関わりについては……何も知らされない状態で使われていたようだ」
このままでは、アクセルを糾弾できないというわけだ。
「うーん。アクセル様、やることはめちゃくちゃだけど、食えない感じの人だったからなあ」
「グレイソン殿下には報告させてもらう」
「そうだね」
いずれにしても、この件は隠し通せない。アクセルにはそれなりにお咎めがあるだろう。
本人も、理解していると思われる。
「でもまあ、こちらも新しい知識や技術が手に入るかもしれないし、全くの攫われ損というわけでもないからさ。がめつくいこうよ、リカルド」
「そうだな、たくさんむしり取らせてもらおう。正直、今回の件では、どう動いてもこじれると思っていたが……一人で解決してしまったブリトニーはすごい」
仲良く馬に揺られて拠点を目指す私たちの後ろには、砂粒のようなたくさんの星がきらきらと瞬いていた。












