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転生先が少女漫画の白豚令嬢だった  作者: 桜あげは 
18歳

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224/259

224:お屋敷と開かずの間

 カラフルな木組みの家々が立ち並ぶ、広く整備された石畳の道。

 馬車で進めば、まるで絵本の中に迷い込んだような風景が広がっている。

 アスタール伯爵領。お洒落なカフェやレストランにも困らない、中央の国第二の都市だった場所。

 栄えた港町を領内に持ち、岩塩の採れる山もある豊かな領地だ。

 そして、私の嫁ぎ先。

 

 このたび、リカルドの功績が認められ、彼が半分になったアスタール領を継ぐことに決まった。

 アスタール家に迎え入れられる私は、リカルドの妻として共に領地をよくしていかなければならない。さらに、リュゼの便宜も図らなければならない。

 

(うう、こんなお洒落な都会でやっていけるのか、私……)

 

 新しい環境にワクワクする気持ちと、不安な気持ちがせめぎ合う。

 丸い体を抱えて外を眺めていると、私の気持ちを察したリカルドが「心配はいらない」と言ってくれた。


「ブリトニーの最初の仕事は、アスタール家の環境に慣れることだ。ゆっくり過ごして欲しい。ただ、婚礼衣装の採寸が控えているから、体型は決めておいた方がいいな」

「え、もう採寸するの!? 早くない!?」


 リカルド曰く、半年後くらいに式を挙げたいとのこと。

 そして、ドレスの採寸は三ヶ月後を予定しているらしい。


(なんとしても、痩せねば!!)

 

 エレフィスのように体型を気にしない令嬢もいるけれど、私はスマートな姿でドレスを着たかった。

 それに、これからは、意志の力で暴飲暴食を控えると決めたのだ。

 ストレスなんぞに負けてなるものか。


 アスタール伯爵領にはハークス伯爵領に近い田舎エリアと、私が今いる都会エリアがある。

 岩塩が採れるのは田舎エリアで、船での貿易が盛んなのが都会エリア。

 山に囲まれて育った私にとって、海辺の街というのは新鮮だった。

 

 ちなみに、リカルドと住む予定の屋敷が建つのは、都会エリアのど真ん中。少し前までリリーや彼女の両親が暮らしていたが、このたびリカルドの手に渡るらしい。

 伯爵業を重荷に感じていたリリーの父親は、すがすがしい様子で屋敷を引き払い、それまで住んでいた場所に帰っていったとのこと。

 

 屋敷にはリカルドの両親が滞在していたが、私が嫁ぐのをきっかけに田舎エリアへ引っ越した。

 なので、屋敷で生活するのはリカルドと私と使用人や兵士の皆様だけ。

 引き継ぎ諸々の仕事は、あらかじめ済ませてあるらしい。

 少し前までリカルドは、ハークス伯爵家とアスタール伯爵家を行ったり来たりしていたのだ。

 いつもリュゼが身近にいたので忘れそうになるが、リカルドはこう見えて、とても優秀である。


 馬車は安全運転で、アスタール伯爵家の屋敷に到着した。何度か訪れたことのあるリカルドの実家は、落ち着いたクリーム色の壁の大きな建物だ。

 無骨な造りのハークス伯爵家の屋敷とは異なり、至るところに繊細な細工が施されていたり、季節の花々がカラフルに窓を彩っていたり……なんというか、お洒落である。

 

 美容を布教する身ではあれど、お洒落すぎる空間は緊張する。田舎者なので。

 庭も公園より整えられていて、豪華な花が溢れる様子は辺境の花畑よりすごい。

 白い布張りの屋根の下にはカフェテーブルが並べられていて、お客として屋敷を訪れた際にはここでお茶を飲んだ。

 さらに、この屋敷には他にも庭があり、迷路のような生け垣や小さな池も存在する。

 ザ・お金持ち貴族の屋敷、それがアスタール伯爵家だ。

 

 門をいくつかくぐると馬車が止まり、先に降りたリカルドが手を伸ばして私を馬車から降ろしてくれる。彼はいつでも紳士的だった。


(ふう、スムーズに扉から出られて一安心)

 

 アスタール伯爵家の人々に、「馬車の出口にお尻を詰まらせる姿」をさらさずに済んで、ホッと息を吐く。

 顔見知りでもあるアスタール伯爵家の人々は、私を歓迎してくれた。

 私の体型を馬鹿にするような人物はいない。

 まずは、リカルドに屋敷内を案内してもらう。

 以前は、私がハークス伯爵家の屋敷を案内する立場だったが、逆転してしまった。


「こっちが俺の部屋、隣がブリトニーの部屋だ。向こうは仕事部屋で奥は図書室、本は勝手に見てもらっていい。何かあれば、使用人に伝えてくれ」

「なにからなにまで、ありがとう、リカルド」

「当然のことだ。言い忘れていたが、一番端の部屋は開けないように」

「どうして?」

「とても危険だからだ」

 

 アスタール伯爵家には、開かずの間があるようだ。

 そんなことを言われると、開けたくなるのが人情だけれど。

 

「覗くだけならいい?」

「いや、その……」


 リカルドの歯切れが悪い。

 なんだ、隠したいものでもあるのか?

 はっきり「駄目」とも言わないので、彼の前で細く扉を開けてみた。すると……


「うぉっ、なんじゃこりゃあ!」


 私は慌てて扉を閉めて後ろに飛び退く。

 部屋の中には、ゴミやガラクタの山が出来ていたのだ。


「リカルド、これ、どういうことなの?」


 きれいなアスタール伯爵家らしくない、不気味な光景に動揺していると、リカルドは観念した様子で口を開く。


「ここはリリーの部屋なんだ。身内の恥をさらすようで言いたくなかったが、すさまじい汚部屋なので片付けが済んでいない。これでも、マシになった方なんだ」

「リリーの? 嘘でしょう!?」

「本当だ。リリーは掃除や片付けが大の苦手で、ものぐさな人間なんだ」

 

 私の脳裏に、愛らしい美少女が浮かんだ。

 リリーはメリルの侍女になるため、今は王都にいる。社交的な彼女のことだから、何の心配もしていなかったが、まさかの汚部屋の住人だったとは。


「とにかく、雪崩が起こったら危ない。完全に部屋が片付くまで、この部屋の扉は開けるな」

「わ、わかった」

 

 リカルドの注意はもっともなので、私は黙って首を縦に振ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] リリー…そうだったのか… 仲間だね!(笑)
[一言] 汚部屋の恐怖 ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル
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