16:温泉ドッキリのはずなのに
大変なことになってしまった。我が伯爵家でのお茶会開催なんて、何年ぶりだろう。
そもそも、招待に応じる令嬢なんているのだろうか。
(不安しかない)
気分をサッパリさせるため、悩みながら温泉へ向かった。
昼間は誰も利用していないその場所は、四方を壁に囲まれており、外から見えない構造になっている。
水を引いてもらった際、外壁の工事もお願いしたのだ。
周りにもスペースを作り、体を洗う場所や脱衣用の場所も用意していた。
温泉の中で石鹸を使われたら大変なので、使用人向けに入浴方法の絵を書き、壁に貼っている。
体を洗ってから温泉に入ると、ザアザア音を立てて湯が外に溢れていった。
ブリトニーの体積は、まだ減らないようだ。
(どうしたものか……)
少し痩せたあたりから、私の体重は増えたり減ったりを繰り返している。
※
温泉から上がって、着替えをしていると不意に入り口が開いた。
驚いてそちらを向くと、青い目を見開いたリュゼが固まっている。私もドレスを抱えたまま固まった。
「ご、ごめん。ブリトニー。中に人がいるとは思わなかった」
彼は慌てて扉を閉めたが、私の硬直は解けない。
下穿きは履いているし、肌着も身につけている状態だったが、そんな状態の自分の体を異性に見られたくなかった。
(恥ずかしい……!)
裸に近い姿を見られたこともそうだが、この醜くたるんだ体を晒してしまったことが何よりも恥ずかしい。
なんという事故!
普通の温泉ドッキリには多少のときめきがあるだろうが、そんなものは微塵もなかった!
(……リュゼお兄様の方が被害者だ。見たくもない醜い私の体を見せられて)
ドレスを着終わって外に出ると、待っていたリュゼに再び謝られた。
「ごめん、きちんと確認すべきだったよ」
「こちらこそ、すみません。大変お見苦しいものを……」
……リュゼは、ノーコメントを貫いた。
今度からは入り口のドアに、「入浴中」の札をかけておこうと心に決める。
使用人たちは、時間帯で男女に分かれて入っているみたいだ。今のところ問題は起きていない。
「ところで、ブリトニー。君のレモンを使った『リンス』とやらは素敵だね。うちの領地にも大々的にレモンを植えてみるよ。領地の収入につながるかもしれない」
私は風呂場に石鹸や自作のレモン水を置いている。それらは、誰でも使って良いことにしていた。
リュゼも、それを使用したみたいで、なんとなく以前にも増して髪がサラサラツヤツヤになっている。
「レモンは割と強い木みたいなので、うちの領地でも問題なく育つかもしれませんね」
「隣の領地では、レモンの栽培も盛んみたいだけど、すぐに実のなりそうな木を買うと高いのかなぁ」
「……うーん、安く融通してもらえるといいのですが」
私は、隣の領地を治める伯爵子息、元婚約者のリカルドを思い浮かべた。
(彼は協力してくれるかな?)
リカルドには、「なにかあれば依頼したい」という旨の話をしていたが、前回の一件だけで片付けられてしまう可能性も高い。
駄目元で、私は彼に連絡を取ってみることにした。